鐘が鳴る 

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【said ゆきみ】


12月24日。

朝から劇場内は大混雑。

伝説になりつつあるマイコのシーバー告白も、この混雑模様に一端は頭から消え去っている。

ガチャッとオフィスのドアが開くと、全身トナカイの被り物を着た北ちゃんがシーバーの電池を取り替えに入って来た。


「超絶似合ってるね、北ちゃん!」

「嬉しくなーい。なんで俺だけトナカイなんですか?樹も壱馬も登坂さんもサンタクロースなのに。」


ブーたれた顔で充電済みの電池をシーバーに差し込む北ちゃんだけど。


「だって北ちゃんが一番似合うから!」

「俺もサンタがいいよ、ゆきみさん。」


わたしの被ってるサンタの帽子を触って訴えるその目が可愛いなんて思ってると、カチっとシーバーから樹の声。


【フロア北人さん。間もなく清掃なんですぐに戻ってください。】

「樹だ。呼ばれてるよ、北ちゃん!」

「油売ってんなって、ゆきみさんに構うなって言ってんだよ、樹。生意気。」

「ふは。わたしも一緒にヘルプ行こうかなぁ!」

「え、じゃあ一緒に行こう、ゆきみさん。はい
手!」


ふわりとトナカイの北ちゃんに手を取られてサンタの帽子を被ったままフロアに出た。

入口まで行くと樹がすぐ様北ちゃんと繋がってる手をチョップする。


「たく。油断も隙もねぇ。」


ムスッとボヤく樹に、女子高生がスっと紙を差し出す。

無言で女子高生を見つめる樹に、「よかったらLINEください!」って、真っ赤な顔で。

あーやだなぁ、そーいうの。


「結構です。僕彼女いるので。ゆきみ行くよ!」


わたしの手を引いて歩き出す樹についていく。


「モテるね。」

「興味ない。」

「ほんと?女子高生ちょっと可愛かったよ?」

「どこが?ゆきみより可愛い人なんていない。」

「えへへ。今日イヴだね。」

「ん。」

「ね、ペアリング買お?樹そーいうのどうかな?って、」

「買う!超買う!」


嬉しそうに樹が笑った瞬間、カチッとシーバーが鳴る。


【フロア入口取れますか?片岡です。】

【入口登坂です。】

【ボックス混んでるからゆきみ今すぐ返してくれる?】

【あーはい。了解です。フロア後ろ藤原くん取れますか?入口登坂です。】

【...はい、藤原です。嫌だけど返します。】

【10秒以内に返してね。】


はぁーって樹が溜息をついた。基本イヤホンつけてるから内容は聞こえないんどけれど。


「片岡に邪魔された。ボックス混んでるから返せって。ゆきみのこと。」

「え、混んでる?嘘、戻るね!」

「待って、俺のもんだよね?ゆきみ。」


今更何の問いかけ?って。相手が直人さんだから不安気になってくれているのか、眉毛をさげる樹は北ちゃん並に可愛い。


「うん。樹のもんだよ!」

「じゃあ行ってよし。」


...最近思うんだけど、樹って実はドエスなんじゃないか?って。セックスも日に日にSっ気出してきていて。

やば、早いとこマイコや朝海ちゃんに相談しておこ。いやでもこれ系はえみのがいいのかなぁ。

混雑しているコリドールを歩いていると上の階に行くマイコとまこっちゃんカップルを見つけた。

階段を上がりきった所で「マイコ!」下から呼ぶと「ゆきみさん!直人さんと樹くん、シーバーでやり合ってましたね!」...自分を棚に上げてマイコが笑う。

でも後ろのまこっちゃんは分かっているのか若干苦笑いで、マイコに何か耳打ちする。

途端にマイコが真っ赤になってまこっちゃんの腕をバシバシ叩いた。それでもまこっちゃんはニコニコ微笑んでいて。

でもわたしの後ろ、上の階の会場準備に来たのは壱馬。


「壱馬くん、大丈夫?」

「平気平気!おい慎、早う準備せえよ、マイコさんとイチャイチャしとらんと!」


あれ以来壱馬は、「マイコさん」って呼んでる。それがたぶん壱馬なりの精一杯の線引きなんだと思う。

本当の本当は空白の一夜があった二人だけど、まこっちゃんの為にそれを全部白にして接しているのはすごいと思う。

自分だったら?そう思うと自信はない。

現にわたしは全部樹に言っちゃったし。


「ゆきみさん、休憩入ったらクレープ食べに行こう!」


笑顔で手を振るマイコに手を振り返してわたしは慌ててボックスに入った。

隣でチケットを裁いている直人さんはカチっとマイクを切ると「30分で裁ける?」なんて聞いた。

大きく深呼吸をしたわたしは、「もちろんです!」笑顔で言うと、カチっとマイクのスイッチを入れた。


「お次お待ちのお客様、一番左のレジまでどうぞ!」


気合を入れてわたしが客を引き付けた瞬間、フロア入口で樹が、会場アナウンスを始めた。

いい仕事して、いい夜を迎えなきゃね。

頭の中でクリスマスの鐘が鳴った。

Merry X'mas ☆


*END*

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