前代未聞の告白劇
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【said マイコ】
イヴイヴの今日は朝から慎くんとシフトが被っていて。だけど思いの外忙しくて仕事以外でなかなか話せる時間が取れなかった。
ようやくゆっくりできると思ったら慎くんのシフトアウトの時間で。
「慎くん、待って。」
私の呼びかけに足を止めた慎くん。ゆっくりと振り返ったその顔は明らかに不機嫌。
昨日ゆきみさんと朝海ちゃんとも約束して、壱馬くんとの事は絶対に誰にも言わない!って決めた。
壱馬くんが傷ついても私は慎くんの傍にいたい。
「なんすか?」
「壱馬くんのこと、だけど。」
「...いいっすよ、それ。俺みたいな奴、最初から選ばれないってちゃんと分かってるんで。じゃ、お疲れ様です。」
スっと目を逸らして向きを変えると早足で歩き出す慎くん。
「待って、なんで勝手に決めるの?なんで話聞いてくれないの!?」
「聞きたくねぇんだよ。」
ぼそっと呟かれて思わず怯む。少し前まで私達順調だったのに。
遠ざかる慎くんの後ろ姿が涙で滲んで見える。
俯いた瞬間零れ落ちる涙。
でも前に進みたい。こんなことで挫けてられない。
壱馬くんの気持ちも無駄にできない。
大きく深呼吸をすると私は一度目を閉じた。
思い浮かぶ慎くんの笑顔。
どう考えても慎くん以外の未来は見えない。
パチッと目を開けるとシーバーをカチっとつけた。
「長谷川慎!!止まれ!!」
シーバーに向かってそう叫んでやった。
冷静に考えたら顔から火が出るようなことかもしれない。
だけど私は必死で。
とにかく慎くんに誤解を解いて貰いたくて。
「なんで無視するの、長谷川慎!私の話、聞いてくれてもいいじゃない、長谷川慎!答えてよ、長谷川慎!」
私の精一杯の問いかけにカチっとシーバーのスイッチが入る音がして。
【聞いてます。てか、こんなとこで話しかけないでよ、恥ずかしい。】
目に見えて照れてそうな慎くんが浮かんだ。
チャンスだって思った。
「だって慎くん私の話なんて聞いてくれないから。信じて、壱馬くんとはなんでもないの。本当に私、なにも...、」
嘘をつくって決めたけど、やっぱり辛いもので。
だけど、真実を知ったら慎くんとはきっと一緒にいられない。
そのぐらいのことをした。
でも今考えてもやっぱりあの壱馬くんはほおっておけない。
例えそれが私の弱さだとしても。
そこに壱馬くんがつけ込んだ、と言われたらそうなんだと思う。
勝手でずるくても、それでも失いたくない人こそ、見失っちゃいけない。
この先慎くん無しの時間なんて私には無い。
零れる涙を拭ってもう一度シーバーで話しかけようとした時だった。
プロジェクションのドアが開いて走ってくる慎くんの姿に腰が抜けてその場にペタンとしゃがみ込んだ。
「マイコ!」
呼び捨てされた事がこんなにも嬉しくて。
駆け寄った慎くんを引き寄せてギュッと抱きついた。
「好きだよ慎くん。私は、慎くんしか好きじゃない。誰に何と言われようと私の愛は慎くんにしか向けない。信じて、お願い。」
「...ん。意地張ってごめん。マイコってこんな突拍子のないことするんだって反省。けどこんな情熱的な告白は初めて。前代未聞だね!俺も、どんなに壱馬さんに邪魔されても、マイコのこと譲れない。」
ふわりと慎くんの腕に抱きしめられた瞬間、ドカッて慎くんの背中に衝撃がはしった。
二人で振り返ると、困った顔のケンチさん。
「たくお前ら。なにをどう説明したらシーバーでやり合うかなぁ。イヴイヴと直人とゆきみちゃんに免じて許してやるけど、二度はするなよ!」
ポンッて今度はケンチさんの大きな手が私の髪を撫でた。
慎くんと目を見合わせて思いっきり赤くなる。
「すみませんでした。」
穴があったら入りたいとはこの事だぁ。
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