嵐の前の静けさ 

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【said ゆきみ】


「元気ない?」

「え?」

「もしかしてまた片岡となんかあった?」

「あ、まさか。直人さんとはもう。」

「え、片岡さん?」

「北人さんちょっと黙ってて。」

「なんだよ樹!俺にも教えろよ。」


ラーメン屋でとんこつラーメンを3人ですすりつつそんな会話。


「樹、壱馬くんとかまこっちゃんとか、知らないよね?」

「...なんで?朝海さん呼びに来たことと関係があるの?」

「ない。いいの、なんでも。それよりこれ美味しいね!」


餃子をパクっと食べるわたしをジーッと見つめる樹と、そんな樹にひたすら話しかけてる北ちゃん。

確か北ちゃんのが一歳上だった気がするけど、樹のが上に見える。


「北ちゃんは樹が大好きなんだねぇ。」

「え?俺ゆきみさんのが好きだけど!」

「北人さん、ゆきみは俺の。」

「なんだよーちょっとイケメンだからってー。」


グサッとフォークで餃子を刺すとそれをパクっと食べた北ちゃんは、そのまま残りの半分をわたしに差し出してニッコリ微笑んだ。

だけど横から当たり前に奪い取る樹が可笑しくて。


「聞いてなかったんすか?北人さん。気安く俺の彼女に構わないでくださいよ?」

「やだねー。樹より俺のが可愛くないですか?ゆきみさぁん!」

「ふは。北ちゃんってそーいうキャラなの?」

「だってクリスマスですよ、もう。俺も彼女欲しいっす。」


ブーたれた顔をしてても綺麗な北ちゃんの横顔に思わず見とれているとニュイって樹が睨んだ。


「今北人さんのこと見てた?」

「...見てない。」

「嘘だ、見ないでよ。北人さん無駄に顔綺麗だからやだ。」


樹の言葉に何故か嬉しそうな顔を見せる北ちゃんに笑いそうになった。

本当は壱馬が気になってたまらないけど、マイコと壱馬の秘密をこの場で言うことも違うと思うし、今日はこのままでいいか、なんて呑気なことを思っていたからだろうか。

まさかあんなことになるなんて、誰も思いもしない。



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それは夕方に起こった。

クリスマスイヴイヴの今日は祝日で劇場内は朝から思いっきり混雑していた。

どのセクションも慌ただしく過ごしている中、ちょうど全ての映画の上映が始まった頃だった。

フルでシフトインしているバイトも多くて入れ替わり時間にマイコのまこっちゃんがムスッとした顔でタイムカードを押しに来た。


「まこっちゃんあがり?」


わたしが聞くとイラついた顔で「はい。」小さく頷く。思わず直人さんと顔を見合わせる。だけど次の瞬間―――――


【長谷川慎!!止まれ!!】


全セクションに届くシーバーが聞こえたんだ。

タイムカードを引き上げたまこっちゃんの手が止まる。

振り返ったまこっちゃんと目が合うと、思いっきり目を見開いている。


「なにごと?てか、今のシーバーマイコだよね。」


【なんで無視するの、長谷川慎!私の話、聞いてくれてもいいじゃない、長谷川慎!答えてよ、長谷川慎!】


震えた声のマイコにまこっちゃんはカチっとオフィスのシーバーを手にした。


【聞いてます。てか、こんなとこで話しかけないでよ、恥ずかしい。】

【だって慎くん私の話なんて聞いてくれないから。信じて、壱馬くんとはなんでもないの。本当に私、なにも...、】


言葉が詰まったマイコが確実に泣いてしまっているのが分かる。

慌ててまこっちゃんの手からシーバーを奪い取る。


「早く行って、今すぐマイコのとこ、行って!」

「分かってます!」


真っ赤な顔してコリドールを全力疾走するまこっちゃんに、コンセの陸が「頑張れー!」って笑って声援を送った。



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