傷つかない恋愛なんてない
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泣きながらそれでも「どうしてもほおっておけなかった。」そう言うマイコを他人事には思えなくて。
「まこっちゃんには言うんですか?」
朝海ちゃんの質問にマイコは首を横に振る。
「言えない。誰にも言わないって。壱馬くんと二人だけの秘密にして、この先も何も無かったようにしようって。朝起きてそう決めたの。でも一人じゃ苦しくて。だけど慎くんには知られたくない。勝手だと思う。でも言わないで、お願い...。」
「知らなくてもいい真実もこの世には沢山あるからね。壱馬くんとマイコがそう決めたならわたしも朝海ちゃんも言わないよ。ね、朝海ちゃん。」
マイコに寄り添う様にしゃがんで椅子に捕まっていた朝海ちゃんはコクっと頷く。
「でもまこっちゃんは気づいてる。」
朝海ちゃんの言うとおり、確実に二人がおかしい事に気づいてしまっているまこっちゃんをどうしたらいいか。
そう思うと直人さんがすごく大人に思えた。
罵声するでも罵るでもなく、ただ全部分かっててわたしの気持ちを尊重してくれた直人さんが。
もしかしたらこの先、直人さんを選べなかったことを後悔する時が来てしまうかもしれない。
だけどきっと樹が隣にいてくれるって信じる。
「マイコ。まこっちゃんが好きなら、まこっちゃんにその想いをしっかり伝えて信じて貰おう。壱馬くんもまこっちゃんも傷つけないでいれたらいいけど、それは難しいよね。マイコの辛い思いは、わたしと朝海ちゃんがしっかり受け止めたから。ね?」
マイコに貰った言葉をそのまま返した。
この言葉にわたしがどれだけ救われたか、マイコにも分かって欲しい。
「そうだよマイコさん!傷つかない恋愛なんてきっとない。かじゅまの為にもまこっちゃんに好き!っていっぱい言ってあげて!」
「うー。」
涙の止まらないマイコを慰めていたら遅番の神谷くんがあがってきて、途端に朝海ちゃんが笑顔に変わった。
「あれ?どうしたの?」
「健太!」
ふわりと抱きつく朝海ちゃんを優しく抱きとめた神谷くんは、わたしを見てペコッと頭を下げた。
「健太に逢いに来たのー!」
「マジで!?すげぇ嬉しい。」
「今日も家に帰ってきてね?」
「もちろんだよ。」
...二人のやりとりが甘すぎてマイコもようやく笑顔が戻った。
よし、後は壱馬くんの方だな。
イチャイチャしている朝海ちゃんを置いてわたしは下に戻った。
「隆二、マイコのことありがとう。ちょっと不安定だから見といてあげて?」
「うん。それはいいけど。なんか俺だけ取り残されてる感じ。クリスマスだし、みんなずりー。」
「隆二モテるのに、勿体無い。」
「え、誰か俺のこといいって言ってる子、いるの?」
「いっぱいいるわよ。隆二と登坂くんは。あ、樹...。」
B階段までくると、樹がこちらを見上げていて。
「はは、彼氏の登場?」
「うん。」
隆二に手を振って樹の所に走った。
手を出す樹に捕まって階段を降りるとニコッと微笑む。
「8時あがりで北人さんとラーメン行くことになったんだけど、ゆきみも行かない?」
「...あーうん。行く!でもお腹空いちゃうから適当にお茶して待ってるね。」
「うん。約束!」
小指を出す樹に巻き付けると、キョロキョロと辺りを見回して誰も見てないのを確認してからチュって小さくキスをした。
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