泣かないで
( 79/88 )
【said 朝海】
ゆきみさんが泣くところを初めて見た。仕事でもプライベートでもこんなに弱っているゆきみさんを見たのは後にも先にも初めてで。
あたしは大嫌いだけど、直人さんといっちゃんの間でこんなにも苦しんでいたなんて、気づかなかった。
「ゆきみさん。」
マイコさんまで泣きそうな顔で。
「わたしが悪いんだよ、全部。だけどわたしがハッキリしていたつもりで、、」
言葉にならないゆきみさんは手にしていたタオルで目を覆う。
チーズダッカルビの時は直人さんのこと選ぶって言ってたけど、昨日はいっちゃんと一緒にいたんだろうって。
健太がいてほとんど他の人なんて目に入らなかった自分を悔やむ。
「あたしの、せい、ですよね?」
「え、朝海ちゃん?」
吃驚してマイコさんが思いっきり首をこちらに振る。
ゆきみさんも俯いていた顔をあげて真っ赤な目であたしを見た。
「あたしがいっちゃんをゆきみさんにって、」
「違うよ朝海ちゃん。わたしが二人にいい顔したんだよ。直人さんって決めたのに、樹のこと、突き放せなくって、樹がそれでも好きだって、そう言ってくれて、結局そのまま樹と一緒にいた。直人さんは全部分かってて、昨日わたしを奪い返しに行けばよかった、って。あんな哀しそうな顔、直人さんにさせちゃって、」
俯くゆきみさんはまたポロポロと涙を零した。
ギュッとマイコさんがすかさずその手を握る。
「ゆきみさん、藤原くんに決めたんだよね?」
「...ん。」
「...藤原くんのこと、直人さんよりも好きだってことだよね?」
コクッと頷くゆきみさんをふわりと抱きしめるマイコさん。
「その気持ち、応援します!いっぱい悩んで出した答えだもん。直人さんの為にも、藤原くんと頑張らなきゃですよ!」
「...うん。」
「私偉そうに直人さんを選んだ方がって言っちゃったこと後悔してて。好きって気持ちは理屈じゃないと思うんです。藤原くんと一緒にいるゆきみさんは、最高に可愛いいです!藤原くんの愛も信じられる。選んだゆきみさんも傷ついてるって、私と朝海ちゃんがしっかり受け止めました。だから一人で泣かないで。笑顔のゆきみさんが大好きだよ!」
マイコさんは時々物凄く強くなる気がする。自分の事よりも他人の事を考えるマイコさんらしい言葉だなぁって。
「まこっちゃんの影響ですか?その強さの秘訣は、マイコさん。まこっちゃんとうまくいったんですか?マイコさんも。」
思わず聞くと真っ赤になって、それからゆっくりとピースをした。
「うん私、慎くんのこと大好きなの!」
「ふは、可愛いマイコさん。」
「朝海ちゃんも、神谷くんと。」
「はい。健太があたしを一番の女にしてくれました。」
思い出すだけで身体が熱くなる。
「哲也さんのこと、気づいてあげられなくてごめんね、朝海ちゃん。」
泣きながらゆきみさんがそう言うからあたしはヘラッと笑って「もう忘れましたよ、前の男のことなんて。」3人で笑った。
PREV |NEXT