奪い返し
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「樹のことが、やっぱり好き。」
そう言えるだろうか。映画館のあるショッピングモールだと誰かに会うかもしれないからって、電車で別の場所に出ての待ち合わせだった。
大型デパートのアクセサリー売り場はクリスマス一色で。思わず足を止めてガラス張りのショーケースを見つめる。
樹、ペアリングとかしたそう。クリスマスプレゼントに買ってあげようかな。
シルバーリングを見つめていると、ポンと肩を叩かれる。
「買ってやろうか?」
わたしを見てニッコリ微笑む直人さんに、胸がチクリと傷んだ。
「どれがいいの?これ?それとも、これ?」
「あの、直人さん、」
「やっぱ俺には買わせてくれねぇんだ、」
低い声がわたしの気持ちを揺らがせる。でもダメ。もうこれ以上樹を好きな気持ちに嘘はつけない。
「直人さん、ごめんなさい。」
俯いてそう言うわたしの肩にふわりと手を置かれる。もしかしたら直人さんは薄々感づいていたかもしれない。
「やっぱり昨日、馬鹿みてぇにお前の事奪い返しに行けばよかった。」
直人さんの言葉にこみ上げる涙をぐっと抑えた。
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「あ、ゆきみさん、こっち!」
笑顔で手を振っているマイコと、その後ろから照れ臭そうに顔を出している朝海ちゃん。
急遽女子会ってグループLINEが入ってそこに顔を出した。
もつ鍋屋さんでマイコが鍋奉行をかってでてくれている。
「ほんと最悪。」
ブーたれた顔で野菜をお皿に分けるマイコの怒り矛先はどうやら壱馬の様で。
わたしがあがったあと、大喧嘩をしたらしい。
「だって影あんなに出てたのに場内チェック全然できてなくって。たまたま慎くんが気づいたから本編前でよかったけど、危うく8番で上映止めるとこだったんです!あいつなんか心ここに在らずみたいな顔だったし、私が文句言ったら無視したんですよ、無視!有り得なくないですか?」
バーっと捲し立てるマイコの言葉をどこか遠くで聞いているような感覚で。
一瞬でも気を抜くと直人さんを思い出して泣いてしまいそうだ。
そして、壱馬が抱えているマイコへの気持ちも知っているだけに切ない。
「うわ美味しい!これ健太にも食べさせてあげたい。」
ポツンと朝海ちゃんがそう言う顔が可愛い。
「神谷くんは遅番?」
「はい。まこっちゃんと入れ替わり。いっちゃんもですよね?」
「うん。」
無言で白菜を口に入れて柚子ジンジャーを飲み込む。せっかく美味しいはずなのになんだか食が進まなくて箸を置くと朝海ちゃんが首をかしげた。
「ゆきみさん、どうしたの?」
ジッとわたしを見てそう言うんだ。
「え?なに?」
「なんか、おかしい、いつもの元気がなくないですか?」
朝海ちゃんの言葉に苦笑い。だから隣のマイコまでまじまじとわたしを見つめていて、次の言葉を待っている。
やっぱり二人には隠せない。
「...直人さん、傷つけちゃった。」
カタンとテーブルに手をついて俯くとポロッと涙が零れた。
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