寂しかった 

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「お邪魔します。」


ピッと暖房をつけてコートを脱ぐ。ハンガーにかけて、樹を見ると部屋を見回している。


「樹も、コート脱いで。今あったかいの、いれるね。」


ドリップコーヒーを淹れる手が震える。直人さんのこと、どう話そう。

嫌われるよね絶対。樹にいい顔しておきながら、楽な方を選ぶつもりだったなんて、「ゆきみ?」え?こっちを見ている樹に笑い返そうとするけど、笑顔なんて出なくて。


「なんだよ、そんな顔。なに泣いてんだよ、」


頬を掠める樹の指。ギュッとその場でわたしを抱きしめる樹の胸はやっぱりトクトク脈打っている。


「樹、ごめん。…ごめんね、わたし、…な、片岡マネージャーに告白されたの。それで樹のLINEを返せなかったのは、直人さんと一緒にいたから。樹にキスまでしといて、直人さんと一緒にいたの。」

「…うん。」

「…ごめんね。ほんとに。」

「うん。」

「だから、もうわたしのこと、」

「いいよ俺。いいよっていうか、ゆきみが片岡マネージャーと付き合うって言うなら俺あがくけど、俺にとって大事なのはゆきみが俺を好きかどうか。少なくとも俺のこと、好きでしょ?」


え、樹?そこにいるのは確かにわたしよりも年下で恋愛初心者の樹。でも、


「答えて?俺のこと、好き?」


わたしの首に腕をかけておデコをくっつけてそんな質問。コクっと頷くと「ちゃんと言葉にして。」…「好き、です。」ギュッと抱きしめられた。


「だったら俺絶対誰にも渡さない!さっき登坂さんにも言われたし。ゆきみのこと、ちゃんと捕まえておく!」

「樹…。」

「確か、恋愛に答えなんてないんだよね?」

「え?」

「そう教えこまれた。朝海さんに。思ったことは素直に言葉にしろって。ゆきみなら受け止めてくれるって。俺喋んの苦手だけど、ゆきみへの想いはいくらでも溢れて止まんねぇ。」

「樹、」

「帰らないから。今から俺以外の男のことは考えないでよ。寂しかったんだから俺、」


既読スルーのことだよね?樹の真っ直ぐすぎる熱い想いを、重いと感じることができなくて。直人さんのことを受け入れてくれるとも思っていなかったけど、そんな言葉を貰えるとも思っていなかった。

朝海ちゃんてば、すごいの連れてきたなぁ。


「強いね、樹。」

「好きな人の前では強がってるだけかも、だけど?不利なのは俺だもん。若いって年下ってだけで負けるなんてやだもん。」

「うん。」

「じゃあさっきの続き、」


樹の美顔がゆっくりと近づいてきてそっと目を閉じた。

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