男の顔
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【said 朝海】
健太がきてからずっとふわふわしていた。
夢うつつって言葉が正しい?
繋がってる手はあったかくて、優しくて。
見つめれば同じような甘い視線を返してくれる。
うううん、それ以上に熱い視線をくれる。
哲也さんは一度もくれなかった本命の愛を。
あたしはこの手を離したくない。
パチっと目を開けると見たことのない部屋だった。
え、夢?
部屋を見回しても誰もいなくて。
ベッドからムクリと起き上がったら、ガチャっとドアが開いてシャワー後の健太がタオルで髪を拭きながら出てきた。
起き上がっているあたしを見て「起きた?」優しく言う。
「ここは?」
「俺ん家。朝海ちゃん車で寝ちゃって、連れてきちゃった。落ち着いたら送るよ。」
「…泊まりたい。」
「え?ここに?」
「うん。あたし健太と離れたくないよぉ。」
ワガママなんて言ったことない。
制限のある哲也さんを困らせたくないってせめてものあたしの強がりだった。
俯くあたしの頬にふわりと健太の手が重なる。
恥ずかしくて顔をあげられないあたしを覗き込む健太は、シャンプーなのか香水なのか分からないけど、いい匂いで。
上半身裸でドキドキする。
「離さないよ。好きなだけここにいていいよ。」
「うん。」
両頬を掴まれて見つめ合うと、迷うことなく健太の顔が近づく。
目を閉じると当たり前に重なる唇。
ちゅ、と音をたてて離れると「…やべぇ。」小さく健太が呟いて目を逸らしたんだ。
だけど、次の瞬間顔をあげた健太はもう男の顔で。
優しさの中にある男の健太があたしをゆっくりとベッドに押し倒した。
瞬きするのも惜しいぐらい、哲也さんに負けず劣らず男前なその顔があたしを満たしていく。
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