帰り道の先に
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「や、やめて!壱馬くん、やめて!」
気性の激しい壱馬くんが、大好きなはずの長谷川くんに頭突きすると、二三歩後ろに下がる長谷川くん。おでこを抑えてしかめっ面。
「慎!お前が悪いで。なんや知らんけど、機嫌悪いん俺らのせいにすな!」
無言で顔をあげた長谷川くんは、壱馬くんをジロって睨みつける。
「壱馬さん、俺の気持ち分かってて言ってます?さっきからずっと思ってたけど、マイコさんに触んなよっ!俺のだよっ!」
ビクってなりそうなぐらいの大声だった。こんなに感情的になったのははじめてで。だけどこの期に及んでそれが嬉しくて、後ろからギュッと長谷川くんに抱きついた。
怒るかと思った壱馬くんは、どうしてか自嘲的に笑うと「…そう、やな。ごめん。言い過ぎた。」ポンッて長谷川くんの肩に手を置くとそのまま私を見ることなく帰っていった。
その後ろ姿を追いかけることもせず、お腹に回された私の手に長谷川くんの手がゆっくりと重なる。
「送ります…。少しだけ待ってて?」
「うん。」
自転車を引いて私を歩道側に寄せて家に向かう私達。
何も話さない長谷川くんはさっきほど怒ってはいない様子。
はぁ〜って白い息を吐き出して空を見上げる長谷川くんをじっと見ていると、視線が絡み合った。
「見すぎです、横顔自信ないからあんま見ないで。」
大きな手を私の顔の前に差し出した。
って、がん見してたのバレてた、恥ずかしすぎる。
「ごごごめんね。でも長谷川くんが思うよりもその横顔すっごい綺麗で私はすごく好き。ビルよりずっと見てたい、飽きないもん!」
私の言葉にブって吹き出す長谷川くん。
チラリと見つめる瞳は柔らかくて…「ビルと一緒にしないで。」そう言うと、右手を私に差し出した。
「え、」
「手、あっためて。」
「うん…。」
ひんやりした長谷川くんの手をキュっと握るとまた白い息を吐いた。
「ただのヤキモチです、さっきの。ごめん俺、マイコさんのことになると…感情のコントロールがきかねぇ…。ださ。」
「長谷川くん、」
「壱馬さんかっこいいから。男の俺でも憧れるところあるし、」
「私は別に、」
「でも俺、それでも負けない。マイコさんのこと、誰にも負けないぐらい…想ってます。」
有無を言わさない長谷川くんの言い方に、その真っ直ぐな気持ちに私の方こそ、想いが募る。
「ずるいよ長谷川くん。いつも自分ばっかり言って私の気持ち聞いてくれない!」
「え?」
「私だって言いたいこといっぱいあるのよ!?」
「え、聞く。」
…真っ直ぐに私を見つめる瞳に、思わずゴクっと唾を飲みこむ。
いざ言おうと意気込むけど何をどう伝えたらいいのか分からなくて、
「時間切れ。好きです、マイコさん。」
長谷川くんの顔が私を覗き込んで小さく唇が重なった――――
「…私も、好き。離れたくない、一緒に居て。」
「うん…。」
目を閉じて長谷川くんのキスを受け止める。
空からは真っ白な雪が舞い降りてきたなんて。
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