逢えたのに
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臣ちゃんの運転で後ろではゆきみさんに話しかける壱馬くんが、ことごとく藤原くんに遮られていて可笑しくって。だけど朝海ちゃんの件から神経を使ったせいか、気づいたら私は夢の中で。
「マイコ、ついたよ。」
ふわりと臣ちゃんの声が耳元でしてパチっと目を開けた。
マネージャー専用の駐車場に車を止めた臣ちゃんは、鍵を締めて大きく伸びをした。
「臣ちゃん運転ありがとう。」
「ドライブならいつでも連れてくよ?」
「それは彼女専用にしてよ、もう。」
「ほら、長谷川超ラスだろ、顔見に行ってこいよ?」
「うん。ありがと!」
前を歩くゆきみさんと藤原くんの後ろをこっそり着いていった。
劇場内に入ると、レイトショー終わりのお客さんが出てきて…
「久々に見たかも、こんなに混んでるロビー…。」
「そうなん?」
「うん。やっぱスターウォーズが入ると全然違うなぁ…。」
「人気やしね。」
「…壱馬くんっ!?いつからいた?」
「いや、ずっとおったけど、気づいてへんかったんか、やっぱ。」
ちょこっとしょんぼりした壱馬くんが可愛くて、ふわりとその柔らかそうな髪を撫でた時だった…―――「マイコ、さん?」聞こえた声に、スッと手を離す。
人混みの中、真っ直ぐに私を見ている長谷川くんにドキンとする。
無言でこちらに近寄ってきて私の前に立った。
やっと逢えた嬉しさに胸の奥が熱くなる。
「あ、長谷川くん、あの、」
「なんだよ二人して、浮かれたノリで。」
聞いたことないくらいの低い声に小さく首を傾げた。
覚めた目で見られて…「あの、」手を伸ばした私の腕を逆に掴まれて、スッと耳についていたカチューシャを剥ぎ取らた。
付けてたことすら忘れてた。
だって壱馬くんの耳にはもうついてなくて。
「おい慎、それお前とお揃いやぞ。次行く時つけや?ほいこれ土産。」
「………。」
あきらかにムスっとした長谷川くんは壱馬くんからお土産を受け取ると小さく溜息をもらす。
「何しに来たんすか?二人揃って。」
顔ごと逸らして冷たい声でそんな言葉。せっかく長谷川くんに逢えたのに。
「慎、なんやその言い方。わざわざ土産持ってきたんに。」
「僕別に頼んでません。」
「…ほんまええ加減にせえよ、」
ボソッと呟いた壱馬くんが、次の瞬間長谷川くんの胸ぐらを掴みかかった。
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