恋しくて
( 64/88 )
なんの、確認?って思えるその内容だったのに、臣ちゃんの後ろにいるゆきみさんすら臣ちゃんと同じような表情で私を見ている。
「どういう意味?」
壱馬くんに視線を向ける臣ちゃんはほんのり眉毛を下げて私の肩にポンと一つ手を置いた。
「本気にさせる前にちゃんと長谷川だって言っとけ。」
「壱馬くんはちゃんと分かってるでしょ。余計な詮索しないで。私は別に、」
「マイコがそうじゃなくても、相手の気持ちまではどうにもできねぇ、今日が楽しいことに何の意味もなきゃそれでいい。けど、感情が入り込んで苦しむのはマイコも同じなんじゃねぇの?心配してんのはそれだけだ。」
臣ちゃんは時々確信に迫る正論を言う。ゆきみさんはそれも嫌いだと前に言っていた。
自分の心を読まれているみたいで、と。
違う違う、脳内でそう言っていてもどうしてか何も言い返せなくて。
やっぱりこの場に長谷川くんがいないことを悔やむしかなかった。
「登坂くん、もういい。後はわたしがって言ったでしょ。マイコだって分かってるわよ。」
ゆきみさんがわたしの腕を掴んで藤原くんがしたみたいに後ろに隠した。
長谷川くんにやってほしかったそれに、急に寂しくなった。
だからその後みんなで合流してファミレスで食べたご飯の味も分からなくて。
壱馬くんが何かしら話しかけてくれたことに私はただ笑っていたんだ。
「あの、マイコさん俺んこと、避けてへんよね?」
帰り際、車に乗りこむ際、腕をとられた。
臣ちゃんが変なこと言うから私まで意識しちゃいそうで、壱馬くんから離れた所にいたのに…。
「どうしたの?避けられるようなこと、したの?」
「いやなんも。けどなんか壁があるように見えてん…。これほんまは二人でつけたかってんで俺、」
こっそりお土産袋の中にあったのは、ミッキーとミニーのカチューシャで。
ゆきみさんと藤原くんがつけていたドナルドデイジーの別バージョンの耳で…。
「あかんかったから、慎にプレゼントしよう思ってる。二人で行く時につけて…って。」
「いつの間に、買ったの?」
「うん。肉買うついでに。樹とゆきみさん見とったらええな〜って…。」
微笑む壱馬くんに罪はない。
これは私の問題だ。臣ちゃんやゆきみさんに心配されるような態度をとったのは私で、でもそれは壱馬くんを人として好きだからで。
そこに恋愛感情は存在しない。
「つけようよ、耳。せっかくだから!」
「え、ええのん?」
「だってほら、似合ってる壱馬くん!」
「俺ぇ?マイコさんのが可愛ええよ。」
嬉しそうに後ろに乗り込む壱馬くんは臣ちゃんの助手席に乗る私からそっと目を逸らす。
断固としてゆきみさんの隣に座った藤原くんの隣に壱馬くんが遠慮がちに座った。
「熱いなぁ、ここ。」
「………。」
無言の藤原くんにゆきみさんが奥で苦笑い。
「こら。」
そう言ったけど、スッと太腿の上で、ゆきみさんの手を遠慮なく握る藤原くんに結局言い返せないゆきみさん。
やっぱり長谷川くんが恋しい。
臣ちゃんのクリームパンなお手手が優しく私の髪を撫でた。
PREV |NEXT