罪
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【said マイコ】
「いややあ!!登坂さんずるいですっ!俺もマイコさんの隣がええっ!!」
「いや壱馬、お前スペースマウンテンマイコの隣乗ったよね?んじゃ次、俺だろ?」
プーさんのハニーハントは二人乗りが二つ繋がってるからそんなに目立たないと思うんだけど、後ろに一人で乗ってる壱馬くんが本気で泣き叫んでいるのが可笑しくて、プシューってハチミツが出てくる所もそれどころじゃなくて見逃していたことにすら気づかない程だった。
アトラクションから降りてお腹を抱えて笑う私に壱馬くんがギューギュー横から抱きついてくる。
「もー笑いすぎや、マイコさぁん!」
「壱馬お前ほんっと、可愛いね。」
「ずるい登坂さん。だからさっき僕に譲ったんですね、スペースマウンテン!ほんま寂しかったわぁ。」
まるで仔犬。捨てられた仔犬みたいに擦り寄ってくる壱馬くんに、なんてゆうか、ペット感覚でよしよしって頭を撫でた。
さっきとは反対、私のシャツの袖で涙を拭ってあげると、カアーッて急に我に返ったのか、真っ赤になって私の腕を掴んだ。
「子供扱いせんといて。」
照れくさそうにそう言ったんだろうけど、私の肩には既に臣ちゃんの腕が乗っかっていて。
「腹減らない?飯、どーする?俺ガッツリ食いたい。ゆきみに電話しよーか。」
そういえば、朝海ちゃんを探すことに夢中だったから言われてみればお腹の虫も限界かも。
「あれ、樹?」
相変わらず私の腕に絡み付いてる壱馬くんが小さく呟いた。
視線の先には…―――――「え、ゆきみさんっ!?あのデイジー!」完全に浮かれたノリに見えるカップルが遠目に見えた。
「あ、もしもしゆきみ?お前すげーのつけてんなぁ、耳。それ樹の趣味?ぷっ、冗談だよ、怒んなよ!それより飯、どーする?そろそろ終わるよね、ここ。俺ガッツリ食いたいんだけど。あ、見つかった。」
スマホを仕舞うと「くるって、ここ。」臣ちゃんが笑顔でそう言った。
私達に気づいたからか耳を外そうとしているゆきみさんだけど、断固拒否してる藤原くん。
これ、直人さん大丈夫?ゆきみさん、直人さんを選ぶって言ってたよね、昨日。
だけどそんな私を見て驚いた顔をしているのはむしろゆきみさんの方で。
何かを言いかけて苦笑いをしたゆきみさんは、ちょっとだけ儚く微笑んだんだ。
「登坂くん、マイコのことありがとう。後はわたしが一緒にいるからいいよ。」
「相変わらず俺に冷たいねぇ、お前。たまには二人きりでデートでもどう?」
「却下します。」
言ったのは藤原くん。ボソッと一言言ってゆきみさんを後ろに隠した。
愛情表現が豊かなのか、口下手なのか。でもなんだか彼の気持ちは真っ直ぐで、だから思い出したんだ、長谷川くんのこと。
途端に心臓がギューッて痛くて今まで馬鹿みたいに笑っていたことが、何だか罪に思えた。
だからゆきみさんが儚く微笑んだんだって、今更気づく。
スッと壱馬くんから腕を離してゆきみさんの方に歩く。
「ゆきみさん。」
ニコッと微笑んでポンポンって頭を撫でたゆきみさんは何も言わない。
ゆきみさんだって少なからず直人さんに対して罪の気持ちがあるように見えた。
「えっと、ご飯。とりあえず出てからファミレスかなんか入ろうかな?って思ったんだけど。ね?」
藤原くんを見上げるゆきみさんは可愛い。直人さんに愛されてるゆきみさんも可愛いけど、どっちかっていうと、藤原くんと一緒にいる時の方がちょっと女度が増して見えた。
私も、長谷川くんとそうでありたい。
直人さんを選ぶことが大人の選択肢とか偉そうに言ったけど、ゆきみさんの表情に嘘はないと思う。
「俺もたへんからあれ食うてもいい?」
離された腕の裾をちょこっと引っ張った壱馬くんは、肉の塊を指さしている。
「壱馬俺のも買ってきて。金出してやる。お前らは食う?」
臣ちゃんが財布を出して聞いたけど私もゆきみさんも首を振った。
「登坂さん、ご馳走様です!」
走って買いに行く壱馬くんの後ろ姿を見ていた私に「長谷川、だよね?マイコの男って。」まるで確認するように臣ちゃんが聞いたんだ。
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