チュロスキス 

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【said 朝海】


決め手なんて特にない。でもあたしの中で確実に鐘が鳴ったんだ、目の前のこの男に。



「どっちがいい?」

「チョコ。」

「チョコ一つください。」


食べたいなんて一言も言ってないのに健太はあたしの視線を追ってそこのチュロスを買ってきたんだ。

スッと口の前に出されて「食べていいよ。」って。

手渡しされるもんかと思ってたから嬉しくて。

パクっと一口かぶりつくと砂糖の甘さが口いっぱいに広がる。


「美味しい?」


そう聞かれたからコクって頷くと「俺にもちょうだい…、」そう言うなり肩に手が回されてあたしを覗き込むように健太の顔が目の前…――――チュって重なった唇と、ちゅるりと入り込む舌が器用にあたしの噛み砕いたチュロスのカケラを持っていく。


「…甘いなぁ、」

「返してよ!」


チュロスを取られたことが嫌なんじゃなくて、健太の舌が心地よかったから。細い健太の首に腕をかけて顔を寄せると、あたしの腰に腕がふわりと回ってそのまま強く抱きしめられた。


「チュロス、」

「ぐふふふふふ。もう食べちゃった。もっと食べる?」

「ん。」


ワイルドにそれを齧ると、砂糖のついたぽってりした唇をあたしに重ねたんだ。

健太の口の中でしなびれたチュロスを探して舌先でつつくと「ンッ、」って健太から小さく声が漏れた。

嫌ってほど、うざいってほど、哲也さんとしてきたキスだけど、健太のキスはそんなキスすら上書きされていくようだった。

違う吐息、違う息遣い、舌の柔らかさ、角度、唇の暑さ、それから舌の動き全てがあたしの中に入り込む。

チュロスをキスで食べてるバカップルはあたしと健太ぐらいかもしれない。

でもここは夢の国であって、なんでも許される気がしたんだ。


「健太、もっと…。」

「あ、食べ終わる。も一本買う?」

「やだ、恥ずかしい。また後でにする。」

「じゃあはい、」


スッとあたしに手を差し出す健太。決して無理強いしないであたしのペースに合わせてくれるこの優しさを、独り占めしていいんだよね?

この優しさは、あたしだけに向けられたもの、だよね?


「朝海ちゃんの行きたい所、全部行こう?」

「いい、ない。健太と一緒ならそれだけでいい。」

「もう、そんなこと言われたら俺…――−」


パッと目を逸らす健太は照れたように笑ってちゅって不意打ちのキスをした。


「甘いね、唇。」

「美味しかった?」

「うん。でももっと欲しい。」

「俺も、」


ふわりと抱き寄せられて首にちゅってキス。

そのまま指を絡めて何度もキスをしながらパーク内を歩くなんて、まさに夢みたい。

大人のクリスマスも、捨てたもんじゃない。

哲也さん、あたし幸せ見つけたから。

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