いざ、夢の国
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【said マイコ】
朝海ちゃんを抱きしめた神谷くんの愛にボロボロ涙が止まんなくて。ふいに伸びてきた川村くんのトレーナーの長めの袖が私の涙を柔らかく拭ってくれた。
「泣き虫やなぁ、マイコさん。」
「え、だって、すっごく嬉しいんだもん。朝海ちゃんのあんな安心しきった顔、初めて見たかも。」
「女ってほんまにみんな強がりやんな。マイコさんも、慎には素直でおってよ?」
「…川村くんうるさい!」
「はは、壱馬でええよ。」
ポンって壱馬くんの手が私の頭に触れて、また涙をゴシゴシ拭う。
「で。無事に朝海を見つけたから後は帰るだけなんだけど、どーする?」
臣ちゃんがみんなを見回していて。だけど既にみんな身体はチケット売り場へ向かっているわけで。
「ナイトパスにしよっか〜。」
えみさんと岩ちゃんは迷うことなく並んで入る気満々だ。
ゆきみさんに視線を向けると目が合って。
「入っちゃう?せっかくだから。」
入口を指さしている。
隣の藤原くんはボーっとツリーを眺めていて。
肝心の朝海ちゃんと神谷くんは仲良くお手手繋いで見つめあっているんだけど、ちょっと待って!
私いないじゃん、パートナー。
今更ながらここに長谷川くんがいない事実に落ち込みそう。
「そういえば、夢の国なんて学生の頃以来かも…。」
「案外行かへんもん?俺USJめっちゃいっとったけど。」
「う〜ん、行かないかも。」
「ほなマイコさんも中、入ろうや?」
「…ん。」
行きたいのはやまやまだけど、やっぱりせっかくなら長谷川くんも一緒がよかったと思ってしまう。
今から呼ぶ?って遅番だったよね、今日。
「慎おらんけど、俺で我慢して?」
スッと私に向かって手を差し出す壱馬くん。ちゃんと私の気持ちを汲んでくれたことが嬉しい。
だけど…。
「行くぞ、マイコ。」
ガバリと臣ちゃんに肩を抱かれて入口まで連れて行かれる。
入口でチケットを買って中に入るとそこはもう本当に夢の国で。
久しぶりの光景にさすがにテンションがあがった。
せっかく来たから楽しまなきゃって臣ちゃんと歩き出した瞬間、左手をギュっと掴まれる。
見ると壱馬くんが泣きそうな顔で掴んでいて。
「いやや、一人にせんで。」
ブッ!!!
臣ちゃんと二人、お腹を抱えて爆笑。
だってこんな可愛い顔で、子供みたいで。
「こんなカップルだらけんとこ、置いてかれたらたまらんです。」
「そうだった。じゃあ私で悪いけど、我慢してね?」
気まずそうに首をぶんぶん振る壱馬くんがふわりと私の腕に絡みついたなんて。
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