恋の始まりB
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19時ジャスト。
スマホの画面が19:00に変わっても何も起こらない。
嘘つき。
画面から顔をあげた瞬間、頭上高く花火があがった。
パンパンパンパンって何発も。
…花火?
「こんばんは。」
花火を見上げているあたしになのか、そんな声。
顔を向けるとウサギの着ぐるみがあたしを見ている。
スっと手を差し伸べた。
そこにあるのは飴玉。
「食べると幸せになる飴です。」
「…そんなの無理。」
「大丈夫、信じて。必ず幸せになれます。」
コロっと手の平に落ちてきた飴を仕方なく舐めた。
イチゴミルクの至って普通の甘い飴。
何も起こる気配のないここディズニーランド。でも次の瞬間、耳が割れそうなぐらいにパンパンパンってどこからともなくクラッカーの音と、中から飛び出してきたカミテープのシャワー。
そこには馴染みの顔が揃っていて…――――「え、なに?なんで?」漏れた低い声に、ウサギの着ぐるみの頭がスポっと抜ける。
「…健太。」
「朝海ちゃんの大好きな人とクリスマス、一緒に過ごそうよ!それが一番だって言ってたよね!」
…――――なんの、こと?
「代わりないでしょ、大好きな人達。みんな朝海ちゃんのこと大好きだよ、俺ら。」
「……馬鹿じゃん。」
「馬鹿でもいい。」
「意味不明。」
「それも承知。」
「お呼びでない。」
「俺には必要。」
「…言葉出てこないじゃん、健太のせいで。」
「じゃあ俺が言うよ。」
そう言った健太はあたしの腕を掴んで強引に引き寄せた。
寒くて寒くて凍りつたんじゃないかってぐらい凍えて震えていたあたしの身体に、ふわりと温かい温もりが落ちる。
「だいすきだよ。待たせてごめんね。寂しい思いさせてごめんね。ずっと傍にいるよ。どんな朝海ちゃんも、あいしてるよ…。俺を信じて。どんな未来もあげる…。」
馬鹿みたい。馬鹿みたい。こんなあたしなんかの為に。哲也さんを想ってこんな汚いあたしなんかの為に、そんな言葉、馬鹿だよ健太。
そう言いたいのに、寒くて唇震えちゃって、今更ながら言葉にならない。
零れ堕ちた涙はさっきと違って温かくて。
健太の後ろにいるマイコさんとゆきみさん達までもがあたしを待っていてくれているのが分かった。
「あの人を忘れられない朝海ちゃんごと、全部抱きしめてあげる。だから俺を信じて。これが俺の覚悟。」
こんなクソ痒い台詞あたしには絶対に向いてないと思うのに、健太から繰り出されるその声は安心できてとても心地いいんだ。
グズッて鼻水を啜るとクスって笑って、鼻の頭に小さなキスをされた。
まさに不意打ちで。
「続きはまた今度ね。」
「…強引すぎ。あたしまだ何も言ってない。」
「分かるよ、だって顔に書いてある。朝海ちゃんはもう、俺をすきになってる。」
涙を指で拭う健太に顔を埋める。
胸の奥でリンゴーンリンゴーン鐘が鳴った。
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