暗闇 

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【said 朝海】



いつかいつかこんな日がくるんじゃないかって思っていなかったわけじゃない。

でもこんなに早くその日がくるなんて考えもしなかった。

なにが悪い?あたしのどこがいけなかったんだろう?

そもそも、潮時ってなに?

最初から分かってて哲也さんに「好きだ。」と伝えた。

「二番目」でいいから付き合って欲しいと。

「誰にも言わない」って約束の元、あたし達の関係が始まった。

二番目でもなんでもあたしはそれでよかった。

大好きな人をその時間だけは独占できるんだから。

目の前には巨大なクリスマスツリー。

気付いたらここに足が勝手にきていた。

クリスマスは無理でも別の日でここに来れたらってそう思っていたのに。

横を通り過ぎるのはカップルばかり。

時々あたしに気付く人は哀れな目で見て見ぬふり。

ごめんね幸薄くて。

負のオーラ背負っててごめんね。

でもあたしが一番苦しいの、お前らにあたしの気持ちなんて分かるか!っつーの。

ここにいたって何も変わらないのは分かってる。

でもどうしても一緒に来たかった。

うううん、ツリーなんてどこでもよかった。

ただ隣に哲也さんがいてくれたらそれで。

クリスマスぐらい、あたしもふわふわしていたかったよ。

ポロリとまた頬を涙が伝う。

どんだけ拭っても泉のごとく流れ出てくるもんなんだって。

ふと空を見上げるとどんより曇っている。

空も雨雲背負ってる。あたしと一緒…

今何時?あ、時計してない。

ポケットにしまった携帯の電源を入れたら吃驚するぐらいメッセージやら着信やらを受信する。

でも哲也さんからは一個もなくて。

こんな風になってもまだ哲也さんが「冗談だよ。」って笑ってくれるのを待っているなんて。

ほんと馬鹿な女。いい加減卒業させてほしい、

健太のトーク部屋を眺めていたらポンと動画が貼り付けられた。

え、なに?ボタンを押すと健太のどアップ。


【今から5分後に魔法をかけてあげます。】


たったそれだけ言ってプチっときれた。

なんだそりゃ。魔法なんて信じない。

変な男。

時間は18:55分。

あと5分で何ができるのよ。

そう思いながらも、健太はもしかしたらなんかしでかすことができる男かもなんて期待もあった。

ただ今は何を見ても、何を聞いてもあたしの闇は消えないけど。

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