恋愛とは
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【said マイコ】
「ね、神谷くんは知ってたの?」
何となくそんな気がして。静かに運転する臣ちゃんの横、軽く後ろを振り返ると神谷くんが外を見ていた視線をこちらに移した。
「え、あ、はい。哲也さんのこと、ですよね?知ってます。」
あえてなのか土田って言わなかったのは壱馬くんに遠慮しているのだろうか。やっぱりな答えに私は大きく息を吐き出す。
「私ってそんなに頼りない、かな…。」
気付かなかったとはいえ、朝海ちゃんの心の中に哲也さんがいたことなんてつゆ知らず、なんだか寂しい気持ちになってしまう。でも―――
「あいついつも自分のことクズだって言うじゃん。だからそういう汚い部分、見せたくなかったんじゃねぇの、単純に。別にマイコのこと信じてないってことじゃねぇだろ。」
ポスっと臣ちゃんのクリームパンみたいな手が私の頭に乗っかると、そのままクシャっと前髪を崩された。
いつも変態かと思っていたけど、こういう時、臣ちゃんって人は妙に頼りになる。やっぱり男だなって思える瞬間だった。
「汚いなんて思わないのに。クズだなんて誰もそんな風に思ってないよ。」
「クズは朝海じゃなくて男の方。悪いのも朝海じゃなくて男の方。そう言ってやれ。女は一々確信のある言葉が欲しい生き物なんだろ?」
「…よく分かってるね、臣ちゃん。だてにモテてないなぁ。そのわりにはよく意味が分かんないってフラれてるよね?なんでだろ…。」
若干面倒そうに臣ちゃんが笑った。
人のことは見えても意外と自分のことは見えなくなってしまうものかもしれない、恋愛なんて。
一歩下がって冷静に考えれば分かることでも、実際自分がその窮地に立たされたら。やっぱり私も色々見失ってしまうんだろうな…って。
そんなことを思いながら窓の外を眺める。
完全に街はクリスマス一色で。今年のクリスマスはどうなるんだろうか。
長谷川くんと過ごすクリスマスをほんのり思い浮かべて身体が熱くなる。
でもだからかハッとした。
「あ、あ、分かったかも!朝海ちゃんの居場所!!」
慌ててスマホのLINEを開くと私はゆきみさんのお部屋で通話ボタンを押したんだ。
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