長谷川くんの本気
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「さっきは、すいませんでした、勝手に勘違いというか早とちりして。余計なこと言っちゃって…。」
夜試写の少し前。
名前のハンコはなかったけど、もしかしたら長谷川くんも観たいんじゃないかって思ってLINEしたらすぐにやってきた。
でももう時間が時間でマネージャーに許可を貰う時間もなくて直接プロジェクションに来るように言った。
さっきの今で恥じらいはある。
だけど、夜試写を理由に呼び出してまで私はきっと長谷川くんに逢いたかったんだって思う。
どーしよう、余裕ないな。
「私が変な反応しちゃったからだよね。私こそごめんね。」
「謝らないで下さい。あの俺、一つだけいいですか?」
「うん?」
「いい加減な気持ちじゃないんで。本気です。それだけは信じて、ください。」
…私も本気だよ。
そう言う前に隆二くんが「おい、やるぞ!」声をかけてきた。
長谷川くんを見て私を見て優しく微笑むと「あークリスマスか、もうすぐ。」なんてボソッと呟いたんだ。
「一番後ろにこっそり座ろうか。」
「はい。」
長谷川くんと二人で一番端の一番奥に座った。
私を最奥に押し込めた長谷川くんはその大きな身体でまるで私を隠すかのように足を広げて座ったんだ。
真剣に見入っていたんだけど、大スクリーンで大音量の中、映画の途中で長谷川くんが私の右手を不意にキュッと握った。
え?
チラリと長谷川くんを見ると暗闇の中私を見てニッコリ微笑む。
え?あ、
画面の中では恋人達のラブシーン。
まさかそれで?だから握ったの?
握られた手を左手で軽く抓ると長谷川くんの視線が飛んでくる。
でもその瞳はちょっと楽しそうで。
結局私がキュンってしちゃってそのまま握り返した。
映画が終わる少し前に長谷川くんと二人でプロジェクションの出口から劇場を出た。
「送ります。」
「ありがとう。」
そこで、朝海ちゃんに飲みに誘われて質問攻めにされたことを聞いた。
「川村くんは、長谷川くんが大好きなんだね。」
この前はさほど感じなかったけど、話を聞いていると、長谷川くんをかなり可愛がっているように思えて。
「壱馬さんかっこいいから憧れです。俺のこと弟って可愛がってくれて嬉しいです。けど他のみんなも好きですよ。みんな仲間っていうか。樹さんや翔吾さんは特に昔から知ってるんで。」
「いいなー。男子の友情って女みたいにグチグチしてないとこがいいよねー。」
「悩みでも?」
「ふふ、違うけど。元々の性格がたぶん男寄りなの私。だから喧嘩とかも殴ってスッキリするならそれがいいって思うようなタイプで。」
「僕は逆に女々しいかも。」
「じゃあ長谷川くんになんかあったら私が守ってあげちゃう!」
冗談で言ったの。売り言葉に買い言葉じゃないけど、軽いノリで。
でも長谷川くんは困った様に立ち止まって私の頬に指を掠めた。
途端にドキッと心臓が高鳴る。
「それはダメです。何があってもマイコさんは僕が守ります。」
本当にずるい子。昨日のキスは、唇が一度触れただけ。それだけでもすごくドキドキした。
だけど物足りなくて。だから今度はギュッと長谷川くんの腕を掴んだんだ。
屈んで顔を寄せる長谷川くんに、精一杯背伸びをして、待ってるんじゃなくて自分から彼に近づいた。
一度ちゅっと触れた後、至近距離で見つめ合う。
腕を伸ばす私を抱き上げそうなぐらいに長谷川くんの腕が絡まって、電信柱に背をついて再び重なり合う唇。
やめたくなかった、もっともっと、キスしたいって、思ったんだ。
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