遠く感じる 

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【said 朝海】


「チーズたっぷりダッカルビにしましょー!」


…って、おい、二人ともなんだよー辛気臭い顔してぇ。

昨日聞けなかったから今日こそ!って。偶然にもみんなオフシフトだったからLINEで呼び出したのに。

鍋しましょ!って買出しに来たものの。


「うーん、なんでもいい。」


心ここにあらずなゆきみさん。


「私も、合わせるー。」


マイコさんはずーっとLINE開いていて、まさかまこっちゃんと話してんの?

なによなによ、女の友情なんて浅はかなんだから。

軽く脳内で毒づいた時だった、あたしの目の前に現れたんだ。


「健太。」


大きな目を見開いて眩しいくらいの笑顔で駆け寄ってきた。


「朝海ちゃん!」

「なにしてんのよ?」

「いやぁ。この辺ウロついてたら朝海ちゃんに会えないかな?って思ってたら本当に会えたから嬉しい!」

「…ストーカーかよ。」

「迷惑だった?」

「別に。」


昨日の今日で照れくさいだけ。

あんな風に真っ直ぐ愛情をぶつけられたことなんて一度もなくて、両手を広げる健太から走って逃げたけど、そうやっていつでもあたしを迎え入れてくれる、みたいな顔しないでほしい。


「あれ、神谷くん?」


LINEを開いてたはずのマイコさんが健太に気づいた。その声でゆきみさんも視線をこっちに向けた。

やっと二人と目が合った。


「鍋ですか?いいなぁ、俺も食べたい。」

「一緒に食べる?」


あーゆきみさん誘っちゃった。健太はあたしを見てニカッて笑うと「はい!」元気よく答えた。



「あ、自分の存在は気にしないでください。」


…哲也さんだってあげたことないのになんで健太を家に入れなきゃいけないのよ。そう思いながらも手際よく料理を手伝ってくれる健太に甘えてあたし達は本題に入った。


「昨日まこっちゃんと飲んだよ。」


あたしの言葉に「あ、うん。」うそ、知ってるの?マイコさんがちょっとだけ恥ずかしそうに微笑む。

ゆきみさんは興味津々でライチグレープフルーツをグラスに注いでジュースみたいに飲んでいる。


「付き合ってるの?」

「…うーん、たぶん違う。」

「分かった、これから付き合う感じだ!」


あたしが言うとまた照れくさそうに笑うマイコさん。

今まで見えなかった幸せオーラを放つマイコさんがほんのり遠く感じるなんて。

こんな風に穏やかででも幸せそうな顔をするマイコさんは、初めてだ。

でもやっぱりLINEは開けっ放しで、ちょこちょこ返事を返している。


「マイコさんは好きなの?」

「…たぶん。」

「寂しい。」

「え?朝海ちゃん?」

「なんか、寂しい。マイコさんが遠いよ。」


幸せオーラを背負ってるマイコさんが、羨ましいのか、なんなのか、どうしてか泣きそうになっていたんだ。

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