守ってあげる
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「まこっちゃん、頑固。」
結局あたしがどれだけ聞いてもまこっちゃんはマイコさんのことに口を割らなくて。いっちゃんとは大違いだ。
自分が好きになったってことだけをあたしの脳裏に植え付けてかじゅまと仲良く帰って行った。
そして残されたあたしとカミケン。仕方なくお店を出て家路を歩く。
「危ないから、掴んどいて。」
そう言ってあたしの手をすんなり握ったカミケン。こいつ、慣れてる。
慣れてる男は嫌いじゃない。
メロンソーダで酔うわけないけど、なんとなく足元がフラつく。
だからかカミケンがその度にギュッとあたしと絡まっている指を握る。
その指をあたしからキュッと握り返すとカミケンの視線が当たり前に飛んできた。
ん?って、あたしが何かを言うのを待っている。
でも何も言ってあげない。
見つめ合うだけで。…いがいと綺麗な顔、してる。濃いけど。
「赤信号、止まれ。」
そう言って横断歩道の前で止まる。夜で車なんて通ってないのに。信号が青に変わると後ろから一台車があたし達を追い越した。
「………、」
見慣れた哲也さんの車だった。
あたしの指定席には、髪の長い女がいたのがほんの一瞬見えた。最悪。
思いっきり立ち止まったあたしは、カミケンの手を引っ張る形になって。振り返ったカミケンがあたしを見て頭にポンと一つ手を乗せる。
「超ラスあがりで、立花さん見かけたから話しかけようと思ってあの駐車場にたどり着いて。見るつもりじゃなかったんだけど。その後土田マネージャーには彼女がいるってことも知って。」
「もういい。そんなのどーでもいい。」
胸の奥がチクっと痛くて喉の奥から涙がこみ上げてくる。
哲也さんのことで泣くもんかって決めてるのに、なかなか守れない。
ポロっと自分の意志とは反して涙が零れ落ちた。
ふわりと首に腕がかけられて、カミケンが後頭部を押してあたしの顔を自分の胸元におく。
「俺が、朝海ちゃんを守ってあげる。」
哲也さんのくれない言葉をくれたカミケン。
でもそんなこそばゆい言葉貰ったことないあたしはどうしたらいいのか分からなくて。
必死で腕の中から出ようともがいた。
涙なんてもう止まっていて。
やっとカミケンの胸を押して一歩後ろに下がる。
「ちゃんと受け止める、だから飛び込んで!」
両手を広げてあたしに眩しいくらいの笑顔を飛ばす神谷健太に、どこかで鐘が鳴ったのは気のせいに違いない。
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