子窓を挟んで 

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【said マイコ】


「修羅場っ!?」

「えっ!?修羅場!?どうした、マイコ?」

「隆二くんどうしようっ、16時からフロアで修羅場かも!!」

「フロアで?なんで?」


臣ちゃんからのシーバーで、ゆきみさんと直人さんがフロアのヘルプに行くのが聞こえて。

フロアにはバイトの藤原くんがいて、ゆきみさんとキス、しちゃった系で。

そんな所に乗り込む直人さん?

さっき怒ってたよなぁ、直人さん。


「どうしよう、隆二くん。ゆきみさんが、ゆきみさんが、」

「あ、ゆきみ入ってきたけど。」

「えっ、どこっ!?直人さんっ?それとも藤原くんっ!?」


映写機の後ろが小窓になっていて劇場内を見下ろせる。

基本的にこの小窓から映像をチェックするんだけど、私は思いっきり身を乗り出して劇場内を覗くと直人さんではなく、藤原くんがゆきみさんを追いかけるように中に入って来た。

声までは聞こえないから二人が喋っているのは分かるけど内容まではこちらには伝わらない。


「藤原?直人さんではないよね。」

「…隆二くん、直人さんってゆきみさんのこと好きなのかなぁ?」

「直人さん?そうなの?そーいうのは俺より臣のが詳しそうだけど。なに?ゆきみを直人さんとあの藤原が取り合ってるの?」


恋愛に疎いらしい隆二くんは興味が無いんじゃなくてほんとうに疎いだけで。

でも私の言おうとしていることを意図も簡単に聞き当てた。


「まだなんとも。ゆきみさんとちゃんと話した訳じゃないから。」


ガールズトークをするよりも、現実が進んでしまっているのかも。

ゆきみさんだけじゃなく、私と長谷川くんも。


「ダメだ、自分の馬鹿さ加減に落ち込む。」


ガクンと首を落とす。でもいい加減な気持ちであんなことしたわけじゃない。

長谷川くんも、そうであってほしい。

そんな軽そうな子には見えなかったし。


「え、おいおい。」


隆二くんは話しながらもずっと小窓を覗いていて。私の腕を掴んで頭を小窓に寄せてくれた。

覗くそこには、ゆきみさんを壁に追い込んでる藤原樹!


「ちょ、え、」


一気に心臓がバクバクいって全身の血が頭に集まるような感覚だった。


「やるなぁ、藤原。これゆきみには内緒にしててあげなきゃね。」


ポンって私の頭を撫でた隆二くんは、次のフィルムの準備に行ってしまった。

…いい男、と思ってしまう。

きっと隆二くんを選んだ女は幸せが約束される。

チラリと劇場内の二人を見ていられなくて私も隆二くんの後を追った。

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