恋のタイミング
( 31/88 )
【said ゆきみ】
マイコに根掘り葉掘り聞くこともできず、きまずそうに樹と一緒に出て行かれた。
シーンとしたオフィスは、直人さんの無言の怒りオーラが見えなくもない。
前に哲也さんが言ってたことは、あながち間違っていないのかもしれない…って、思えた。
でも直人さんだってあやふやだったもの。
ハッキリと告白されたわけでもないし…
だけどよくよく考えてみたら、いつだってわたしに優しかった直人さんに、愛を感じずにはいられない…。
今更だけど。
「マネージャーリファンドお願いします!」
ボックスから岩ちゃんの声が聞こえて直人さんがそっちに行った。
はぁーって小さく溜息。
「ちゅーしちゃったの?藤原くんと。」
聞いたのは哲也さん。ここに二人きりだからってデリカシーないなぁ。
「突っ込まないでくださいよ、そこ。」
「だって面白いんだもん、お前ら。俺は直人の味方だからなぁ〜。」
「哲也さん、直人さん本気かも…です。どーしようわたし。」
「ゆきみちゃん、恋愛で大事なことってなんだか分かる?」
「分かりません。分かってたらもっとうまくやってる。」
「だよね。じゃあ教えてあげるね。」
ニッコリ微笑んで哲也さんはこう続けた。
「タイミングが大事なんだよ。」
タイミングって、どんなタイミング?
「直人はちょっとタイミングがズレてるかもしれないけど、まだ終われないって俺は思う。俺が直人ならバイトの若造相手に絶対に引いたりしないもん。直人の言葉受け取ってからでも遅くないと思うよ。藤原くんとの未来のことも。」
いつもは面倒な哲也さんのおせっかいも、今日ばかりは素直に胸に刺さってしまう。
【マネージャーとれますか?フロア入口登坂です。】
【はい、土田です。】
【16時から二人ヘルプお願いできますか?】
チラリとわたしを見る哲也さん。
【ゆきみちゃんと片岡マネージャーが行きます!】
【ありがとうございます。】
「哲也さんのせいで立花に頭あがんないじゃん俺。」
「大丈夫だよ、朝海は。」
彼女がいるのに、どうしてか哲也さんの「朝海」が特別に聞こえた気がしたなんて。
PREV |NEXT