愛に気付いた剛典

【said 剛典】


「…岩ちゃん、」


俺を見たゆき乃はぶわって涙を浮かべて。でも一歩進むことができずに留まっているのが分かった。俺が夕べあんな風に拒否したせいで幼馴染って距離すらなくなっている俺達。


「なんだよ剛典。こいつ傷つけるなら俺が黙ってねぇぞ。」


そう言って直人が腕で引っ張ってゆき乃を自分の身体の後ろに隠したんだ。この難関を超えなきゃ俺、男じゃないし、美波に顔だてできない。


「もう、しないよ。昨日はごめん、ゆき乃。殴ってごめん、直人。」
「…怒ってないの？」


ゆき乃の震える声に自嘲的に笑う。


「昨日はショックで気が動転してて大人げなく怒ってごめんね。なかなか冷静になれなくて、俺だけがおいてきぼりみたいな気になっちゃって…。でもやっぱりゆき乃は俺にとって誰よりも大事だし、直人も大事。だから俺も、ちゃんと二人と向き合おうと思う…。許してくれる？」


俺の言葉に直人の後ろ、ゆき乃が顔を出した。その瞳からはポロポロと涙が零れていて、こんな風に泣かせてしまったことを至極後悔した。それから俺って人間の小ささにも。直人がゆき乃を見てそっと前に出す。


「岩ちゃん…岩ちゃん…岩ちゃん…。」
「ごめんね。」


ギュっとゆき乃の手首を掴むと直人がゆき乃を俺の方に押した。同時に俺の肩を軽く叩いて「俺も悪かったな。」そう言って舞子と臣の所になのか歩いていく。押されたことでゆき乃が俺の胸にふわりと飛び込んできて、そっと背中に腕を回すとぎゅっとしがみ付く。

ああ俺、この温もりがすげぇ大事なんだって心底思ったなんて。「好きだ。」と伝えるにはまだ感情がコントロールできないけど、このポカポカしてギュって痛いような感情は、ゆき乃への愛に違いない。


「お前らそろそろ夜の準備すんぞ！」


コテージから健ちゃんが叫んでいて、みんながゾロゾロとそっちに戻って行く。俺とゆき乃もこの闇に呑みこまれないようにコテージに戻った。

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