上手な作り笑顔

【said 美波】

岩ちゃんと川原に戻るとバシャーンって音。ゆき乃と直人が飛び込んだのが見えた。


「え、なにしてんの…。」


唖然とする岩ちゃんの背中を押す。困ったようにあたしを振り返る岩ちゃんを無言でもう一度押した。ふう〜って息を吐き出した岩ちゃんは、次の瞬間キリっとした顔で「分かったよ、行ってくる。」そう言って川に落ちたゆき乃を迎えに行ったんだ。直人もいるっていうのに。


「美波、こーら。」
「え?」


振り返ると健ちゃんがそこにいて。


「お前哲也となんかあ、」
「ないよ!またいつもの喧嘩。哲也の奴ほんとムカツク!健ちゃんは心配しすぎ!」


ニーって笑顔を作る。哲也のせいであたし、作り笑顔がうまくなってるよ絶対。だけど言えない。さすがに今は「悔しいけどそれでも好き…。」そんな言葉は言えないよ。川原の傍らで至って真剣にリフティングをしている哲也が不意にあたしに気付いたのかハッとしたようにこっちを見た。次の瞬間ポトっとサッカーボールが砂利の上でバウンドする。


「うお、やっちまった…。」


あちゃーって顔を歪めたんだ。


「よし、アイスでも食おうか?」


スッと健ちゃんに手を取られてコテージへと誘導される。岩ちゃんがタオルを持ってゆき乃を待っているのを見てほんのり優しい気持ちになる。誰だって幸せになりたいと思ってる。あたしだって哲也だって。この苦しみから解放されたいと思いながらも一人前に進めないあたしに誰か気づいて――――…。



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