まともな絡み
【said 美波】
「哲也、哲也!」
水鉄砲を哲也に向けて発射させると、見事哲也の開いた胸元に命中。
「うわっ!…たく、容赦しねぇぞ!」
このキャンプにきて初めて哲也とまともな絡みと呼べるものが現実になった。2日目の今日はここにゆき乃と直人だけがいないだけで、何も変わってない。昨夜のあたし達は最悪で。岩ちゃんに完全拒否されたゆき乃は、影も形もなくなりそうなくらいに弱ってしまって。あたしや舞子が何を言っても魂が抜けてしまっていた。「俺が残る。」って言う直人に任せて出てきたけど心配は心配。それでもこうしてあたしと普通に接してくれる哲也に喜びしか感じない。
サッカーボールでリフティングをしていた哲也に水をかけると健ちゃんから水鉄砲を取ってあたしを狙ってくる。
「ちょっと哲也、あたし女!手加減してよっ!」
「手加減するか!容赦しねぇって言ったぞ俺!」
思いっきり哲也が水をかけてくるもんだから、気づくとあたしの白Tが透けていて。
「あほう、これ着とけ。」
健ちゃんが着ていたパーカーをあたしにサッと被せた。ダボダボなそのパーカーはあたしをすっぽりと隠す程に大きくて、健ちゃん独特の香水にちょっとだけドキリとしたなんて。
「ごめん美波。俺別に狙った訳じゃなくて。」
黒いブラを一瞬見た哲也はちょっと赤くなって顔を逸らす。
「別に狙ってくれてても哲也ならいいよ、あたし!」
「そんなこと言うなよ、もう。」
「そーいう困った顔の哲也も可愛いね。」
「嬉しくねぇよ。」
「ねー。あっちに超でっかい吊り橋があるんだって、2人で行かない?景色綺麗みたいだよ!」
ほんの一瞬考えるような仕草をしたものの、すぐにニコッと笑うと「行くか!」哲也がそう言って水鉄砲を置く。
「健ちゃん、吊り橋行ってくる!哲也と2人で!」
「気ぃ付けやぁ。」
「うんっ!」
ギュッと哲也の腕に絡まっても嫌な顔しない哲也に、自然と胸は高鳴る。少なからず哲也もゆき乃と直人のことショックだったんだろうなーって。あたしが癒してあげるからね。
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