塩っぱいおにぎり

「ゆき乃、昨日岩ちゃんと…」


部屋に戻って自分のベッドの上で転がっているわたしに、しゃがんで舞子がそう聞いた。美波はシャワーに行っててこの部屋には舞子とわたしの二人っきり。遅くにりゅーじと二人で一階に戻ってきた舞子はまこっちゃんと臣に挟まれて眠っていた。明け方早くに岩ちゃんはきっと自分のコテージに戻って行った。…わたし達、このままどうなっちゃうの？


「舞子…岩ちゃん信じてたのにって…触るなって…。」


思い出すだけでも胸が痛い。いつも優しい岩ちゃんがあんなにもわたしを拒否するなんて…。ポロポロとまた涙が溢れて止まらない。こんな風になって今更、てっちゃんに冷たくされていた美波の気持ちが分かるなんて。馬鹿すぎる。


「きっとちょっと吃驚しちゃっただけだよ、岩ちゃん。すぐにいつも通りの岩ちゃんに戻るって。」
「…無理だよ。今日まで生きてきて岩ちゃんがあそこまで怒った姿なんて一度だって見たことない。いつだって優しくて温かくて…。」


もう二度と「ゆき乃」って呼んでくれないのかもしれない。二度とわたしの顔なんて、見てくれないのかもしれない。せっかくのキャンプでみんながこの場を盛り上げようとしているって分かってる。だから昨日だって健ちゃんとてっちゃんが率先して百物語しようって全員集めてたのに…心が死んだように冷たくて、この場から動くことができずにいる。

キャンプ２日目の今日は本当なら川でみんなで遊ぶってことだったのに。


「お前まだ凹んでんの？」


どうしても行きたくなくて具合が悪いからってコテージに残ったんだ。無理やり美波と舞子に行ってもらってベッドの上でゴロゴロしていたら急にそんな声が聞こえた。吃驚して振り返ると、白Ｔを着た直人。壁に手を掛けてこっちを見ている。


「直ちゃん、なんでいるの？」
「なんでって、ゆき乃１人置いてくと思ったのか？ばーか。ほら、腹減ってんだろ。食えよ？」


お盆に乗ってるのは形の悪いおにぎり。


「直ちゃんが作ったの？」
「まぁ。形より味重視だから。」


ベッドに座ってわたしの口元におにぎりを持ってくるからそれをパクっとかじった。ちょっと塩っぱい直人のおにぎり。直人の優しさがいっぱいで泣けてくる。


「美味し。」
「まぁ、愛情たっぷりだから。」


ポンポンって優しく頭を撫でてくれる直人に、ほんの少しだけ心の闇が溶けたような気がした。

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