眠れぬ夜

【said ゆき乃】


ほとんど眠れなかった。後ろから絡みつく直人の温もりさえ今のわたしにはどうでもいいもので。あんな風に全力で人に拒否されたのって初めてだった。夕べ、自分の気持ちを岩ちゃんに伝えようってロフトから一階に降りて行った。


「岩ちゃん！」
「ゆき乃！ねぇ嘘だよね？直人とヤったなんて嘘だよね！？」


泣きそうな顔でそう聞く岩ちゃんにわたしは「本当だよ。」小さく答えた。その瞬間、わたしを掴んでいた岩ちゃんの腕が離れて、一歩、二歩…と後ずさる。まるでわたしを化け物みたいに軽蔑したように見つめる岩ちゃんになんとも言えない気持ちになった。


「直人もゆき乃も信じてたのに。俺に触るなっ！！」
「…岩ちゃん、待って、話聞いて！」
「聞きたくないっ！」
「どうして！？お願い逃げないで、わたしの話、聞いて！」
「触んなよっ！」


岩ちゃんに腕を振り払われて、ドンっと床に尻もちをついた。その怒りに圧倒されて立ち上がれなくて。


「ゆき乃大丈夫？」


てっちゃんがわたしを立たせてくれるけど、腰が抜けちゃってストンっとまた床にずり落ちる。バタンって大きな音を立てて岩ちゃんがコテージから出て行った。胸が痛くて苦しくて涙が零れる。


「ゆき乃、大丈夫だから。」


てっちゃんがふわりとわたしを抱きしめるから余計に涙が止まらなくて。よしよしってポンポン優しく背中を撫でるその温もりが、岩ちゃんのものとは違う感触で悲しい。涙の止まらないわたしを、直人がてっちゃん越しに切なく見ていた。

悪いのはわたしだって分かってる。後ろで寝息をたてる直人にそっと寄り掛かるとキュっとお腹の手に力が込められた。直人も眠れなかったのかな…。

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