包容力ある温もり

「わたし岩ちゃんとこ行ってくる！」


そう言ったゆき乃の背中を、あたしと舞子の二人で押したんだ。それと入れ替わるように「あ、舞子いた。」金髪のりゅーじがこのロフトに顔を出した。


「あのさ、ちょっと話したいんだけど、いいかな？」
「…私？うん、勿論。」
「じゃあ、はい。危ないから。」
「…うん。」


紳士的にロフトの階段を手を取って誘導するりゅーじはなんだか戦士っぽい。戦ってる相手は、臣なんだろうか。さっきまでゆき乃の泣き声とあたし達の話し声で賑やかだったのに、二人がいないだけで一瞬で静かになった。健ちゃんが「よっこらしょ。」ってジジ臭く腰を下ろしたから、あたしも隣で座り込んだ。


「大丈夫かぁ？」


優しい健ちゃんの声に心の奥がホッとする。哲也でも臣でもない、この癒しの感じは健ちゃんにしか出せない空気なんだと思う。キャンプ初日から大荒れなあたし達だけど健ちゃんの隣だけはやっぱりどんな環境の中でも安心できるんだって改めて思う。


「大丈夫じゃないよー。せっかくのキャンプがどうなってんの？」
「あかん、そらこっちの台詞やん。みんな焦りすぎちゃうか。」
「…まぁあたしも人の事言えないけど。健ちゃん…今が苦しいのはみんな一緒だよね？」


時々物凄い弱い自分に負けそうになってしまう。強くありたいと思いながらも、誰か助けて！って縋りたくなる。そんな時にこんな風に手を差し出してくれる人がいるあたしは、苦しくてもまだ幸せなんじゃないかって。健ちゃんの包容力は誰にも適わないんじゃないかって。ふわりとあたしの肩を抱き寄せてコツって頭をぶつける健ちゃんの肩にそのまま頭をもたげた。


「臣になんか言われてん？」
「…早く哲也を楽にしてやれって…。」
「ほう、それはすごいな。」
「それはあたしが決めるって言ったら、ごめんって謝られた。」
「臣も臣で、なんか抱えてるんかもな？それを美波に重ねてはるんかもしれんなぁ。」
「…舞子のこと？」


そこでふと思ったんだ。舞子を迎えに来たりゅーじ。戦士の顔に見えたのは…


「もしかしてりゅーじ！」
「舞子もああ見えて自分のことは二の次やからな。」
「へぇよく知ってんだね、舞子のこと。」
「なん、ヤキモチ？」
「だって健ちゃんはあたしの大事な人だもん。」
「ふは、可愛ええやっちゃな。サンキューベイビー。」
「健ちゃん好き！」


ギュっと横から抱きつくと健ちゃんの力強い腕に抱きしめ返された。時に、人の温もりって大事。それでも目を瞑ると浮かぶのは屈託なく笑う哲也だけ。

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