背中を押すから

「お前なんで直人に抱かれたりしたねん？」


ポンってしゃがんで健ちゃんが言うけど、あまりサラリとその事実を言ったから一瞬聞き間違えかと思った。思わず舞子と目が合う。冗談でしょって顔で。だってゆき乃は出会った頃からずっと岩ちゃん岩ちゃん言ってて。確かに直人がゆき乃を好きなことぐらい見りゃ分かったけど、相手にしてないと思ってた。幼馴染だから仲良くしてるんだって。


「はっ、ゆき乃、直人とヤったの！？」


思わず出た言葉に、「包んで、オブラートに！」ポカって健ちゃんの肘鉄。いや今更オブラートもなにもないでしょ！そーいうとこ完全にピュアだと思ってたけど…


「言いたくない。」
「ゆき乃が否定せんと岩ちゃん、ぶっ壊れてまうで？」


健ちゃんの言葉にますます泣きだすゆき乃。泣くぐらい嫌ならどうして…。


「もう帰りたい。健ちゃんわたし、帰りたい…。」
「このままでええの？岩ちゃん…。ゆき乃のこと信じとるって。」
「無理。尚更無理。だって岩ちゃんが女の先輩と付き合ってるって！岩ちゃんのこと好きな先輩が岩ちゃんと付き合ってるから邪魔しないで！って。わたしそれ信じちゃったんだもん！岩ちゃんに直接聞かないで、それ信じちゃったんだもん！もう絶望しかなくてどうでもよくなって…―――最低でしょわたし。直ちゃんのこと利用したんだよ！こんな汚いわたし、岩ちゃんに逢えない。もう岩ちゃんに逢えないよ…。」


３人の過去は知らないし、ゆき乃のしたことは変えられない。だけど今ここで逃げたら一生岩ちゃんに好きだって言えないままだよ？いいの、それで？


「バッカじゃん！」


あたしの言葉に埋めていた顔をあげるゆき乃。真っ赤な目であたしを見つめる瞳に「逃げんなよっ！」そう言った。え？って吃驚した顔のまま怪訝に顔を歪ませる。


「そうやって逃げて岩ちゃんからも一生逃げ続けるの？」
「…美波？」
「ゆき乃は岩ちゃんのこと好きなんでしょ？」
「…そうだけど。」
「じゃあもっとぶつかりなよ！岩ちゃんだってゆき乃のこと好きだからそうやって怒ってんじゃん。好き同士なのにずるいよ、みんな両想いになりたくて必死なんだよ！自分のしたことから逃げるなんて許さないっ！」


気づくとあたしもボロボロ泣いていて。せめてゆき乃には素直になって欲しいから。踏み出せないならあたしや舞子がいくらでも背中押すから…―――だから負けないでよ。ちゃんと実らせてよ！


「美波の言う通り。ゆき乃と岩ちゃんがうまくいったら私達みんな嬉しい。目の前の現実から逃げちゃだめ。ちゃんと受け止めて一歩進もう！ね？」


優しく諭す舞子にゆき乃が涙を拭いて頷いた。

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