あと一歩が見えなくて

【said 美波】


「舞子の様子見に行こう!」


そう言ってゆき乃に連れ出された。


「舞子、どうかしたの?」


あたしの問いかけにゆき乃がほんのり眉毛を下げてこっちを見た。


「聞いてもいい?」
「え?」
「臣となんかあった?なんか急に臣と美波の距離が近づいたように見えて…。」


ゆき乃の言葉に固まった。もしかしてそれで舞子が?やだ泣きそう。


「ないよ、なんにも。ただ臣はあたしの気持ちを理解してくれてるだけ。」


そんなつもりじゃないのに、そう言ったらゆき乃が更に眉毛を下げた。哲也を想うあたしの気持ちを理解してくれているって。ゆき乃に当て付けたように聞こえてしまっただろうか?何も言わずに黙り込んだゆき乃に「違うの!」ってたった一言言ってあげられない自分がいて。


「あ、舞子いた。行こう美波。」


ゆき乃に腕を強く引っ張られて前のめりになりながら「うん。」小さく頷いた。


「舞子!」


コテージの二階の廊下の上についているロフトに舞子はいた。天窓から星を眺めているその背中が今は妙に小さく見える。あたしのせいで舞子まで傷つけちゃってるとか嫌なんだけど。でも臣の優しさはずるくて、今のあたしには必要なもので…。


「えっと、お腹は大丈夫?」


ゆき乃の言葉に舞子が涙目になって微笑んだ。


「心配、かけてごめんね。」
「大丈夫?」
「…うん。」


全然大丈夫って顔してないのにいつだって舞子はあたし達の前では明るく振る舞うんだ。
そんなことしなくていいのに、でも結局あたしもゆき乃もそんな優しい舞子に甘えてるんだって。言いたいこと言いあえないで、なにが友達だって…笑える。


「あのさ、」


そう口を開いた時だった。


「悪いなぁ、ガールズトーク中に!ゆき乃借りれる?」


ポンっと肩に手を置いたのは健ちゃん。振り返ると口端が赤く腫れていて。


「え、どうしたの?」
「ん〜ちょっとなぁ、岩ちゃんがキレてもーてん。」
「…なんで?」


ゆき乃が泣きそうな顔で健ちゃんを見つめる。言ってもいいのかどうしようか迷っているような健ちゃんの顔に「健ちゃん!」腕を揺すると眉毛を下げて苦笑い。


「初体験の話、…しとってね、直人が。ほんで、岩ちゃんがキレてもーた。で俺と臣ちゃん、とばっちり…みたいな。」


健ちゃんの言葉にその場にペタンって座り込むゆき乃。それから一言「死にたい…。岩ちゃんに知られるぐらいなら消えたい…。」ポロポロと泣き始めた。



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