兄貴みたいな存在

哲也チョイスのiPodが大音量でかかっている車内。運転手だっていうのに一々ゆき乃を気にかけている哲也に、さっきから何だか切なくなってきた。元々分かっていることとはいえ、せっかくのキャンプなのにやっぱり哲也はあたしのことなんてちょっとも見てくれない。なんだかなぁ。


「もーすぐサービスエリア着くよー!」


哲也の声にゆき乃が足をバタバタさせた。


「てっちゃん、オシッコ漏れちゃう急いでー!」
「ぶっ!マジ可愛いから。待ってろ後5分で着くから!」
「ねぇ哲也、アイス食べようよ一緒に!ここのソフトクリームめっちゃ美味しいって有名でしょ!あたし1人だとお腹壊すから一緒に食べよ?ね?」


強引に哲也の腕を掴んでそう言うと、なかなかの冷めた目であたしを一瞥した後「俺アイスな気分じゃないから、他誘って。」…溜息。そんなに否定しないでよ、もう。無性に腹が立つのにこの怒りの矛先をどこに向けたらいいのか分からずあたしはサービスエリアに着くと真っ先に車から降りた。向かうはもう一台の運転席!


「健ちゃん!」
「わ、とと、美波、どないしてん?また哲也となんかあったん?」


優しく抱き留めてくれる健ちゃんは高校生の時物凄い悪で、うちの大学に入るのに一浪していた。だから実年齢はあたし達の一つ上で。でも何故かこの事実を知っているのはあたしだけ。そしてあたしが哲也を本気で好きなことを知っているのもまた、男では健ちゃんだけ。みんなは遊び程度に思っているかもしれないけど。そんなあたしの本音を知っている健ちゃんには誰にも言えないモヤモヤもイライラも全部吐き出すことができる、言わばあたしにとって兄貴みたいな存在だった。


「…健ちゃんとこ乗りたい。」


小さく呟くと、ポンと一つ手を頭に乗せて「ほんなら隣きいや!」いつもの健ちゃんスマイルをくれた。


「てーつ、あたし健ちゃんの方行くね?」


ゆき乃とフランクフルトを食べている哲也にそう告げると「ほんと?じゃあゆき乃隣来てよ!」…あたしの気持ちなんてお構い無しにゆき乃を誘う哲也。


「え、でも、美波は?どうして健ちゃんの方行くの?」
「んー。ヤキモチ。」


そう言うと健ちゃんが「ぶはははは」って笑ってあたしを軽く叩く。キョトンとしたゆき乃と哲也に、「剛典、前座れよ。」直人の言葉にこれまた鈍感岩ちゃんが「分かった!」…。その瞬間哲也がガックリ肩を落としたなんて。



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