ハプニング

【said 舞子】

人数が多いせいか、カレーを作るのも結構時間がかかった。大き目の鍋で煮詰まったカレーをみんながみんな美味しいって食べた。隆二の具合もすっかりよくなって、コテージのすぐ下にある川原でみんなで遊んでる。魚手掴み競争とかして…。一緒になって川で遊んでるゆき乃を見守りつつフルーツジュースを作るのにリンゴの皮むきをしながらボーっとしていた。なんとなくあの輪に入る気になれなくて。せっかくのキャンプだっていうのに。勿論楽しめていないとかじゃなくて、心がざわついちゃって気持ちを落ち着かせてからみんなの所に行こうって思っていた。


「舞子来ないの?」


ひょこってコテージに顔を出した美波。こんがり小麦色の肌の美波は哲也の為なのか、いつもはラフな格好だけど、今日はちょっとだけリゾートっぽくワンピースを着ていた。それはそれで美波によく似合っていて可愛い。


「あーこれ作ったら行くよ。」
「んじゃ手伝う!」
「大丈夫だよ、美波も哲也のとこ行ってきなって。」
「…いいよ、今は。ゆき乃と楽しんでるし…。」
「美波は偉いね。」
「…へ?なんで?」
「ゆき乃が悪いとかじゃないけど、ちょっと切なくない?」
「ああ、それか。あたしの魅力が分からない哲也が可哀相ってね?」


ニカって笑顔を見せた瞬間、キャアア―――!!ってゆき乃の悲鳴があがった。バシャバシャって音と哲也や岩ちゃんの声。慌てて美波と川原に降りていくと、びしょ濡れのゆき乃を抱きかかえた哲也が川からあがってきた。


「ちょっとどうしたのっ!?ゆき乃大丈夫っ!?」


私の言葉に水を飲んじゃったのか、苦しそうなゆき乃がゲホゲホ咳こんでいて。哲也が近くに置いてあったタオルでゆき乃をくるんで「連れてく。」そう言ってコテージへと歩き出す。通りすがりに美波を見て悲しそうにゆき乃が目を逸らしたのが分かった。


「足滑らせちゃってゆき乃、ちょっと溺れかけた。」


岩ちゃんが泣きそうな顔でついてくる。その後ろの直人はちょっと悔しそう。コテージの中でソファーの上、哲也がゆき乃をギュっと抱きしめた。ハッと息を呑むも、美波の視線も岩ちゃんも直人も、みんながそこを見つめたなんて。



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