ノー天気な岩ちゃん

【said 臣】

最悪。たく…。自分の頭を抱えて小さく溜息をつく。ここ数時間でいったい何があった？確かに隆二は俺らの中でも舞子に懐いてたけど、告るまでのもんじゃねぇって勝手に思ってた。それなのに…―――


「臣どーしたの？」


頭を抱える俺を心配そうに見ている岩ちゃん。こいつのそのノー天気なお気楽さ分けて欲しいぐらい。


「いや別に。」
「頭痛いの？大丈夫？舞子に薬貰う？」


キョロキョロ見回して舞子を呼びそうやったから慌てて岩ちゃんの腕を掴んだ。吃驚して隣にあった椅子に座り込む岩ちゃんに苦笑い。


「別に平気だって。それより岩ちゃんもうちょい焦った方がよくねぇ？」
「え、焦る？何を？」


さっぱり分かってない岩ちゃんに教えてやろうか迷って何も言わないことにした。さっき直人に不意打ちでキスされたにも関わらず別にどうってことないって顔で交わしたゆき乃。あれは絶対におかしい。ゆき乃みたいな子だったらキスなんてされたら大袈裟に拒否りそうなのに。まるで初めてじゃねぇみたいな反応で…。なんかあったんだろうな〜って思う。岩ちゃんはそんなの絶対ぇ知らないんだろうけど。ゆき乃の岩ちゃんすきすきオーラは俺も誰も分かってるけど、直人が本気出したらそれも分かんねぇ？って。


「ゆき乃のこと。好きなんだろ？」
「え、なに急に？」
「ばかやろ、急にじゃねぇ。お前が遅せぇんだって。うかうかしてっと直人に取られんぞ？」
「…直人！？なんで？哲也じゃなくて、なんで直人っ！？」


まるで俺に掴みかかってきそうな勢いの岩ちゃんは、どうやら直人のゆき乃への気持ちも全く気付いてないらしい。どう見ても好きだろ直人、ゆき乃のこと。


「俺が見るにそう思うだけだよ…。」
「あ、なんだ。臣が勝手に思ってるだけか。直人は俺達の幼馴染だよ。大丈夫。」


…大丈夫じゃねぇから言ってんだ、おいっ！
そう思ったけど岩ちゃんって奴は真っ直ぐで自分の信じたこと以外は聞き入れない頑固な所もあったりする。きっと自分で感じたこと見たことが岩ちゃんの全てなんだと思う。直人と一緒に過ごしてきた時間が岩ちゃんの直人への信頼なんだって。だからもうなんも言わねぇ。


「泣き見ても知らねぇぞ。」
「も〜臣の意地悪！」


ぷうって女みたいに頬を膨らます岩ちゃんのケツを思いっきりドツいてやった。

― 19 ―

prev / TOP / next