下手くそな玉ねぎ

【said 美波】


「りゅーじ…指、綺麗だね…。」
「え?そうかな?」
「うん。ゴツゴツしてないっていうか…。」
「はは、哲也はゴツゴツなの?」
「…りゅーじあたし、哲也と手繋いだことなんてないんだよ。」
「そうなの?美波のことだからもう、押し倒してるんじゃないかって…。あ、いや、そのぐらいの気持ちなんだろうな…ってね。」


苦笑いを零すりゅーじにあたしは自嘲的に笑うしかない。お昼はとりあえずてっとり早くカレーライスにして、夕方からみんなで庭でBBQにしようってことで纏まった。男子たちはもうお腹もすいてそうだしって。意外にも玉ねぎを切っているりゅーじは器用でうまい。つい見とれたものの、りゅーじ酷い。


「あたしそんなに軽く見える?」
「いやごめん、そうじゃなくて。美波ってなんていうか、恋愛基質っていうか、常に恋してるイメージだから。」
「大学入ってから哲也以外に恋なんてしてないのに。」
「そうだよね、ごめん。俺が悪い。」
「好きじゃない男とヤったりしないから。」
「うん分かってる。」
「………ぐすん。」
「えっ、美波まじでごめんねっ!俺まじでそんなつもりじゃなくてっ、ほんとごめんっ!」


ポロっと涙が零れる。ポロポロって次から次へと。そんなあたしを見てりゅーじも泣きそうな顔で。


「おう、どないしてん?」


健ちゃんの声が聞こえた瞬間ヤバい!ってあたしはペコっと笑った。


「りゅーじ玉ねぎ痛い!もーあたし代わる!」
「…へ?あれ、泣いてたんじゃなくて俺の玉ねぎで?」
「そうだよ。もー目痛くてたまんない!」
「なんだぁ、吃驚した。でもよかった。美波泣かせちゃったと思って。」


ポンポンってりゅーじの優しい手があたしを撫でるけど、健ちゃんがシラケた目で見ていて。一歩近づいた健ちゃんはゴツって軽く頭突きをした。


「いったい!健ちゃん痛い!」
「心配させた罰。」
「だってりゅーじが、」
「そや隆二は舞子の方手伝ってこい。」


トンって足で舞子の方を指してこの場からりゅーじを退かした?あたしの隣で玉ねぎの皮を剥く健ちゃんとチラっと目が合う。


「手ぐらいいつでも繋いでやるけど?」
「聞いてたの?」
「聞こえてん。」
「健ちゃんの手も想像よりゴツゴツしてるよね?りゅーじと岩ちゃんはすごく細くて綺麗な気がする。」
「お前、手フェチ?」
「わりと。」
「へぇー。これはアリ?」


あたしの前に自分の手を差し出す健ちゃんはまじまじと見ていて。その手にそっと手の平を合わせるとやっぱりあったかい。


「んー。半分アリ?」
「なんやぁ、半分て?」


半笑いで健ちゃんが聞くから。その腕に絡まって小さく言った。


「この手の温もりは必要!」
「…そやろ、」


何も言わずに笑う健ちゃんと一緒に玉ねぎをいっぱい切ったんだ。



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