大事な友達

【said 美波】


溜息。溜息。溜息！哲也の馬鹿！馬鹿馬鹿馬鹿！最低！！なんてどんなに心の中で罵っても哲也を想う気持ちは一向に消えてはくれない。せっかくのチャンスだっていうのに、こんな風に明らかにゆき乃のこと教えてなんて言われたらさすがのあたしも落ち込む。


「ちょっとあっち行ってくるね。」


哲也にそう言ってまた哲也から逃げた。あーもうやだ。こんなことで泣きたくなんてないのに、泣きそうになってる自分が嫌だ。


「美波、どうした？」


腕を掴まれて振り返ると臣が心配そうにあたしを見ている。あたしはニコっと微笑んで「ん？」って。別になにもないよって顔で臣に笑顔を送る。でもジロっと睨まれて…。


「ばーか、何隠してんだよ。美波の喜怒哀楽なんて分かるっつーの。ほらどうした、兄貴に言ってごらん？」
「…げ、とんだ子ども扱い。」
「いいから言えよ。」
「…いいよぉ、そういうの。臣は舞子がいるじゃん。こんな買い物してる間にりゅーじに取られてもしらないよ？」
「俺はそんな風に隆二を育ててねぇから平気。で、お前はどうした？哲也になんか言われた？」


腰をグイっと引き寄せられてう、動けないし。臣ってなんでこんないい匂い？すんの？至近距離で思いっきり見つめられてるのに、臣は至って真剣で。きっと本当にあたしを心配してくれているんだって思う。こんな時よく思うんだ。哲也以外の人を好きになれたらもっと楽なんじゃないかって…。


「なんで分かるの？」
「なんでってちゃんと見てるから。」
「…かっこいいね、臣は。」
「誤魔化すなって。友達だろ俺ら。美波が悲しそうな顔してんのほおっておけねぇよ。」


ポンポンって腰の腕を背中から頭に持ってきて優しく撫でてくれる。臣の肩に顔を埋めるようにくっつくとふわりと抱きしめてさえくれる。子供をあやすようにポンポンって優しく何度も背中を撫でてくれる臣の優しい手。こんな風に哲也に抱きしめて貰えたら幸せなのにな。


「哲也が好きすぎて、結構苦しい…。」
「そっか。けど誰も傷つかない恋なんてこの世にはねぇよ、きっと。それだけ美波も哲也も本気ってことじゃん。」
「ん。ゆき乃のこともっと教えてって言われちゃって、ちょっと弱気になっちゃって。」
「そりゃだめ。哲也が悪い。けどな…いっこだけ覚えといて？」
「いっこだけ？」
「おう。どんな事が起こっても、美波のこと大事な友達だから。いつでもなんでも話せよ。」
「…うん。臣…ありがと。」
「まじ大好きだよ、美波のこと。俺がな。」


うん。あたしも大好き。友達として、本当に大好き。

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