好きな人の笑顔
【said 哲也】
「哲也は何が好きなの?」
「え?俺…?」
「うん、食べ物!教えて哲也の好きな物、あたし何でも知りたい!」
美波が俺の腕に巻きつくようにして身体ごと寄せてきてニッコリ微笑んだ。…困る。マジで困る。ゆき乃が買い物に一緒についてきてくれねぇかな?って淡い期待はすぐに吹っ飛んだ。美波が俺についてくるなら確実にゆき乃はこねぇだろ…って。頭では分かっているけど、気持ちがついていかない。
「何でも食うよ俺。特にこれってないけど?」
当たり障りのない返答しかできなくて毎回悪いとも思ってる。きっと美波には冷たいって思われてるんだろうってことも。
「ないの?じゃあ考えといてよ、何が食べたいか!哲也が食べたい物作りたいからあたし。ね?」
「…いいよ。俺じゃなくて他の奴の食いたいもん作ってよ!せっかくだし、健二郎や臣の…。」
さり気なく掴まれた美波の腕を解いてカートを押す。シュンっとした美波を置き去りにするように俺は一人黙々と食材を籠に入れていく。
「それゆき乃好きだよ、そのチョコ。いっつもそれ食べてる。あとこっちのポテチとベビスターも。」
見ると眉毛を下げた美波がゆき乃の好きなお菓子を手に取って籠に入れた。
「え、」
「喜ぶよ、ゆき乃。買ってもいいよね?」
「うんうん、サンキュー美波!」
思わず嬉しさで美波の髪を撫でた。ふわって柔らかいその髪に、美波が嬉しそうに微笑む。そんな風に笑わせてやれたらどんなにいいかって思うけど、俺の心は美波じゃなくてゆき乃しかいない。どんなに美波に冷たいと思われようと、ゆき乃にしか心はあげられない。
「哲也が嬉しいなら、あたしも嬉しい…。」
そう言って隣を歩く美波を遠くから健二郎が見つめていることにきっと美波は気づいていないんだろうな…。できるのなら言ってしまいたい。けどそれはルール違反だから。
「ゆき乃のこと、もっと教えてよ。」
そう言ったら、やっぱり泣きそうな顔で美波が目を逸らしたんだ。俺って最低。
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