鈍感な舞子

「え、あのその、ゆき乃は、いるの?」
「うん、いる。」
「え、誰?」
「………夜になったら教えてあげるね?だから岩ちゃんも教えて。」


わたしの言葉に困ったように岩ちゃんが目を逸らした。それから舞子の指示で色んな所を掃除した。このコテージは安いかわりに全部自分達で準備するってことになっていた。シーツも全部選択して干して、外にはテントまで張れるようになっていた。


「舞子、テントも張る?」
「もちろん!隆二具合どう?」


ソファーでぐったりしているりゅーじを舞子はちょこちょこ見に行っていて、その度にりゅーじが嬉しそうに微笑んでいる。なんか可愛いなぁりゅーじ。舞子を好き好きオーラが全身で出てるの分かるし。ちょっとは岩ちゃんも見習って欲しい。


「うん薬飲んだからもう大丈夫そう。舞子ごめんね、なんもできなくて。」
「いいの、気にしない。隆二が元気になってくれたらみんな嬉しいもん!ね、ゆき乃?」


舞子の問いかけにニッコリ笑って頷いた。スっと立ち上がったりゅーじは大きく伸びをして深呼吸をすると、外でテント張りの準備をしている岩ちゃんと直人の所に小走りで行った。


「りゅーじ嬉しそう。舞子、舞子、あのさ、もしもね、りゅーじに好きって言われたら舞子はどーする?やっぱり臣だから断る?」
「え、隆二に?」


冗談でしょって顔で笑ってる舞子だけど、もしかして本気でりゅーじの気持ち、気づいてないの?むしろ臣の気持ちも分かってない?


「…うん、りゅーじに。」
「ないないない!隆二はゆき乃と同じでみんなのマスコットだよ?私のこと好きな訳ないでしょ!もう、変な事言わない!ほら、岩ちゃんとこ行くよ?」


舞子に背中を押されて外のテントに近づく。それでもりゅーじのサポートをしようとする舞子は無意識でりゅーじを選んでいるんだろうか?だけどその時だった。テントの上にセミなのか虫が飛んできて…


「ぎゃああああああああ!やだやだ虫嫌いっ!イヤっ!」
「舞子落ち着け、危ねぇっ!」


―――――ドサッ!!!
りゅーじの腕を下敷きに、舞子とりゅーじが重なり合って倒れた。ほんの一瞬シーンとして…「大丈夫っ!?」わたしが駆け寄ると、りゅーじが舞子を抱えたまま起き上がった。腕を擦りむいているりゅーじだけど、舞子のことちゃんと守ってくれている姿に愛しか感じない。涙目の舞子が「隆二ごめんねっ!」すぐに謝るけど「舞子が無事でよかった。俺もちょっとは役に立ったでしょ?」嬉しそうに歯を見せて笑ったなんて。



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