吉野北人*1

「北ちゃんの専属マネージャーやりたいなぁ。」


高校1年春。大好きなバスケ部に入部した俺にそう言った男バスマネージャーのゆき乃先輩にあっけなく恋をした。―――ものの、彼女はちゃんと彼氏持ち。だから俺はああなんだ、冗談かって。あっけなく失恋をした。―――ものの、次の恋になかなかいけないのは、ゆき乃先輩のことが本気で好きだからなんだと思う。


「I LOVE YOU…今だけは悲しい歌…聴きたくないよ…I LOVE YOU…逃れ逃れたどり着いた…この部屋…―――♪♪」


カラオケの十八番をさり気なく口ずさんだ俺に、歌い終わった瞬間ストンと隣に人の気配。


「すごーい!上手!本気で感動しちゃった。」


パチパチパチって拍手と共に笑顔をくれるゆき乃先輩に照れ笑い。歌うことは大好きで、人に聴かせるのもわりと慣れている。でも、好きな人に知らぬ間に聴かれていたことは初めてで、無駄に笑うしかできない。


「将来の夢は、歌手?」
「…まぁ、なれたらいいな…とは思ってますが、」
「なれる!北ちゃんなら絶対なれるよ!」


きっとなれる、より、絶対なれる!そう目をランランとさせて言ってくれるゆき乃先輩が好き。あーやばいな俺、止められそうもない。この人欲しいわ本気で。だけど、


「ゆき乃先輩?どう、したんですか?」


俺の腕を掴んだゆき乃先輩は俯いていて。え、もしかして泣いてる?


「ゆき乃先輩、あの…。」
「北ちゃん。ごめん、もう一回歌って欲しい…。」


歌うよ、何度でも。あなたの為なら。うんもイエスもない、俺のこの声で泣きたいなら泣けばいい。


「I LOVE YOU…今だけは悲しい歌…聴きたくないよ…I LOVE YOU…―――♪♪」


小さく震える肩に手を添えたらゆき乃先輩が蹲った。数日後、ゆき乃先輩が他校の男と別れたって耳にした。よっしゃ、俺にチャンスが回ってきた。

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