胸の痛み
「え、買い物?」
「うん。自炊。あ、作ってくれるんなら作ってよ?」
「…私が?」
「他に誰が?」
手の平を上に向けて首を傾げる藤原さんに苦笑い。まぁいないけど。それほど認識があるわけじゃないのに、このノリってある意味凄いよね。そもそも今ここでこの人についていった私自身…ある意味凄いことであって。
「何が食べたいんですか?」
「ん〜。なんでもいいけど、日持ちするもんがいいなー。それとも毎日作りにきてくれる?」
「…家政婦ですか、私?」
「まさか!それなりにお礼はするよ。」
ふわって肩を抱かれて、悔しいけどドキっとするなんて。まさかとは思うけど、私のこと食すつもりじゃないよね?のこのこ家までついてきちゃったけど、そういうつもりだったらどうしよ…。え、やだ急に不安になってきた。こんだけかっこいい人に女がいないわけないだろうし…。
「お礼ってどんな?」
藤原樹の腰を掴んで立ち止まる。だけど私の顔が強張っていたのか、彼はクスっと微笑んで「ごめん、冗談。そんな怯えた顔すんなって。」今度は優しく私の髪を撫でたんだ。
「猫見たらすぐに帰ります。」
「分かった。」
肩の手がさり気なく外れて藤原樹が私の一歩前を歩き出す。これでいい。こんなのあっちゃいけない。この人の事全然知らないし、他人も同然なのに、ちょっぴり胸がチクっとすることに、気づいたりしちゃいけないんだから。
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