甘COOL | ナノ
携帯番号


でも次の瞬間…


「いなかったらこっちにかけて。」


書きだされた携帯番号に仕事だっていうのにドキドキする。


「直で携帯でも構わないんで。」
「…あ、はい。」


ペンを置く指に見とれつつも、藤原樹の顔から目が離せないんだ。真っ直ぐに私を見た彼はほんの口元を緩ませてこう続けた。


「お姉さん、名前なんていうの?」


…え?名前?名前って私の名前?え?なんで?見つめる彼は軽く首を傾げていて。


「知らない奴からの電話俺出ないから。」
「…あーそう、ですよねぇ。すみません私、一條です。」
「一條さんね。了解。」


ニッコリ微笑んだ藤原樹の破壊力、半端ねぇ。これはダメだ。奈々に報告だ。今すぐ奈々に報告しないと魂抜かれそう。軽く頭を下げてゆっくりと歩き出す彼の後ろ姿に「ありがとうございました。」辛うじてそう言ったら、後ろ姿のまま片手をあげて「連絡よろしく!」なんて言うんだ。

チャラくはなさそうだけど、きっと慣れてる。女の扱い方には。きっと…。

大手出版社の中にあるこじんまりとした社内売店、そこが私の職場だった。社員や近辺の書店用にとうちの会社の書籍を取り扱っていた。短大卒業後、特にやりたいこともなく転々とアルバイトをしていたもののもうちょっとちゃんと働こうと派遣に登録してこの売店を紹介された。課長は穏やかでとっても優しいおじさんという感じで、主任はちょっと癖のある人だった。私ともう一人派遣の先輩がいて、お店には先輩と私が交代でレジにたっていた。基本は本の整理や販売などの単純作業という楽な仕事で、そんな緩さが私には向いているって思ってて。まさかこんな出会いがあるとは心にも思っていなかったんだ。

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