甘COOL | ナノ
二度目の来店


「この本ありますか?」


丁寧に紙に書かれた文字は男の人にしてはとても綺麗だった。難しそうな題名の本に思わず顔を歪めた。そんな私を見ていたのかフっと笑みを零す。


「…え?」
「あ、いやごめん。眉間にしわが寄ったから。ここになかったら取り寄せて欲しいんですけど。」


…嘘私、眉間にしわ寄ってた!?しかも笑われるとか。馬鹿だと思われたかなぁ…。恥ずかしい。検索でキーボードを叩く手が緊張で震えそうでドキドキする。


「ごめんなさい、なさそうです。注文するので少しお時間いただいても大丈夫でしょうか?」
「勿論。」
「ではこちらに記入していただけますか?」


注文用紙をスッと彼の前に差し出すと、ペンを取ってサラサラと書きだしたんだ。

…藤原樹…いつき?名前まで綺麗。あ、ラブマガ編集部?うわーそっちだったんだ。全然イメージない。


「携帯のがいい?」
「へっ!?」
「電話、内線と携帯どっちがいい?」


どっちがいい?え?それ私が選んでいいの?…ジッと私を見つめる藤原樹にここって感じに身体がカアーっと熱くなる。


「あの、どちらでも、出やすい方でいいです…。」


当たり前に業務的返ししかできないわけで。本当は携帯…って言いたいけど、これぞストーカーの始まりとか思われるのは御免だし…。


「了解。」


そう言った彼は私の気持ちに反して内線番号を書いたんだ。ここで携帯番号知ったところで、仕事以外で使うなんてことすらないというのに、何故かちょっと残念な気持ちになるなんて。でもほんの少しホッとしている自分がいるのも確かだ。

― 2 ―

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