甘COOL | ナノ
指が綺麗な人


「これください。」
「あ、はい。ありがとうございます。」


最初にいいな…と思ったのは指。指が綺麗だなーって。次に声。ボソッと喋るから聞き取りずらいんだけど、よく聞くと柔らかくて温かい優しい声で。それから顔を見たら目が大きくて印象的だった。会計をする私に財布からお金を取り出そうと伏し目がちになって、次の瞬間目が合った。あ、睫毛長い。下睫毛、すごい長い。私より絶対長い。あまりに綺麗で見とれそうになったのは内緒。


「ありがとうございます。」
「どうも。」


ほんの一瞬手が触れただけで、心臓が高鳴る。これはその、いわゆるあれか…―――――


「えっ!?一目惚れっ!?嘘でしょ!?ゆき乃の口からそんなの初めて聞いた!」
「私だって初めてだよーこんなの。」


月1の定例会!という名の食事会。高校の時からの親友、奈々が吃驚!って顔で私を見ている。私って人間の性格から好みのタイプから何もかもを知っているのはこの人だけだと思う。既に既婚者である奈々の家によくよく現れる私に快く手料理を振る舞ってくれる奈々にいつもこうして色んな近況を報告していた。今日はまさかの男の話が出るなんて思ってもみなかったのか、わりと驚いた顔でパスタを頬張っていて。


「へぇ〜。拓真以来だねぇ、こんな恋する乙女なゆき乃ってば。」


まさかの元カレの名前にほんの一瞬だけあの頃にフラッシュバックしたような気分にすらなったなんて。


「拓真の話はいいからぁ。そのなんていうか…また会いたいなって思って。」
「うん。うん。可愛い!ゆき乃可愛い!いいよいいよ、でももし付き合うことになったらちゃんとあたしが見定めるから挨拶来させてよ?」
「はぁ〜い!って、気が早い。そもそもあんなイケメンに彼女がいないわけないと思うんだけど。」
「指輪は?チャライの?」
「指輪はしてなかったけど。チャライかどうかも正直わかんないよー。」
「どこの部署の人?」
「それが、それも分かんなくて…。」
「わりと前途多難だねぇ。でも頑張れ!あたしは応援してる。ゆき乃の幸せずっと願ってるからさ!」


こうやって直接私に言ってくれる人はこの世で何人いるのだろうか?この世の中、親友と呼べる人を持っている人間はどれほどいるのだろうか?人それぞれ付き合い方は違うけれど、私と奈々は誰にも負けない絆があるって自負している。こんな風に私の話で幸せを噛み締めてくれる奈々が有難い。


そんな報告を奈々にしてから三日後、再び彼が店にやってきたんだ。

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