あたしの宝物
【side 朝海】
ケチャップたっぷりのポテトを健太が一本一本食べさせてくれる。見れば見る程神谷健太がかっこよく思えて仕方がない。どうしてこの顔に今まで気付かなかったんだろうか。
「けんた。」
「ん〜?」
この胸の中にある健太が大好きって気持ちが、あたしの表情で全部健太に伝わればいいのに…って思う。ジっと見つめる先「照れちゃうから〜。」って目を逸らしてあたしの腰に腕を回す健太にコテっと寄り添った。
「キャンプ、楽しかった?」
「めっちゃ。朝海は?」
「うん。けんたのお蔭ですごく楽しい。このまま帰りたくない。もっとずっと一緒にいたい…。」
大学生の夏休みなんてきっとあっという間に終わってしまう。ましてや明日帰るなんて思いたくない。元の生活に戻りたくない訳じゃない。きっとこれからいくらでも健太と楽しい事が沢山待ってるはずだって。それにマイコやゆきみ、他のみんなもいるし。でもこの旅行だけは今夜が最後で。こんなセンチな気持ちになるなんて思ってもみなかった。
「いっぱい辛い事あったけど、今が楽しいなら俺も嬉しい。朝海が嬉しいなら俺も嬉しい。」
柔らかい健太のほんの少し掠れた声にケンタと指を絡めた。
「人を好きになると、こんなにもあったかいんだね。」
健太が好き。それを噛み締めるだけでどうにも泣きそうな気持ちになる。今ここにいるみんなが幸せであることがこんなあたしでも嬉しくて。これから先、どんなことがあってもこのみんなと一緒に乗り越えていきたい…―――そんなことを思ったなんて。
恥ずかしいから言わないけどさ。せめてこの輝かしい一瞬を写真にでもおさめておくべき?なんて思っていたから?
「ね、みんなで写真撮ろうよ!」
聞えた声はゆきみのもので。「すいません、写真お願いします!」そう言ってたまたま通りがかった銀髪の馬顔にスマホを手渡した。めっちゃ花火の途中だっていうのに、それでもあたし達はみんな寄り添ってポーズを決める。
「自分らええなぁ、仲良さそうで!よしいくで、ハイチーズ!」
カシャ。
かけがえのない仲間と、かけがえのない瞬間。
これからもずっと、あたしの宝物。
*END*
― 93 ―
prev / TOP / next