幸せな瞬間
【side ゆきみ】
「はい、あ〜ん。」
真っ赤な髪をわたしの星型のピンでばってんに止めてる北ちゃんが超絶可愛い。肌だって透き通ってるし、顔だってイケメンすぎでむしろ女のわたしなんかよりも遥かに可愛い。まこっちゃんとりっくんと樹が焼きそばを二つづつ持って戻ってきた。樹が隣に座って焼きそばを一つわたしに差し出した。
「北人と食えよ。」
「え、いいの?」
「その為に買ってきた。」
見ると、まこっちゃんはマイコと壱馬に。りっくんは朝海とケンちゃんにそれを渡している。なんだかそんな状況にほっこりして胸がキュっとする。
「何笑ってんだよ?」
イカ焼きを頬張る樹がチラリと横眼でこっちを見た。樹と北ちゃんに挟まれているわたしは、前を通る女子達からの嫌な視線を存分に浴びてるわけで。
「いっちゃんがもうちょっと不細工だったらよかったなぁ〜。」
ついそう言うと、ブって北ちゃんがりんご飴を落としそうになった。空中でキャッチしたのは運動神経抜群のりっくん。
「危な!落とすなよ、北ちゃん。」
「あー悪い悪い。だってゆきみが面白いこと言うから。どーせなら陸ももうちょっと不細工でもよかったんじゃない?」
北ちゃんの言葉に今度はわたしがいちごのかき氷をふきそうになった。
「どーいう意味よ、それ。」
「全くだ。これ以上かっこよくなるなって言うなら分かるけど。」
りっくんと樹がジロリとわたしと北ちゃんを睨んだ瞬間、空高く花火があがった。途端に今までしていた雑談なんて飛んでいって。空に咲く大輪の花をただただ見つめていたんだ。不意にそっと北ちゃんの指が絡まってコツって耳が触れる。
「なぁに?」
「好きだよ、ゆきみ。」
くすぐったい北ちゃんの声に「わたしも好き。」小さく答えると、ほっぺに小さなキス。笑うわたしにまたほっぺにキス。
「も〜。」
「食べたい。ゆきみのこと。今すぐ…。」
「げ、無理。だってわたし花火見てたい。」
「…ちぇ。じゃあ待つ。でもあれやらせてよ?」
「あれ?」
首を傾げて北ちゃんを見つめたわたしに、浴衣の帯を指で引っ張ると「あ〜れ〜」って北ちゃんが笑った。でも当然ながら浴衣は解けてきて。
「ぶっ!!」
りっくんと樹が口元を押さえて向きを変えた。
「北人、バカヤロ!!」
慌てて浴衣を直すわたしは、北ちゃんを睨みつけながらも、この幸せな瞬間を噛み締めていたんだ。
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