ずっと、ずっとね

「ゆきみもよ。いつも樹、樹って…。だから樹が調子にのるんだから!」
「ひでぇな、おい。」


樹が眉間にしわを寄せると北ちゃんがここぞとばかりに思いっきり笑った。


「あ、うん。そうだよね。つい癖でいっちゃんに頼っちゃってたけど、これからはマイコと朝海にちゃんと相談する。」
「約束!」


ゆきみに向かって小指を差し出すとそこに巻きつくゆきみの小指。そのまま朝海にも私達二人の小指を差し出す。潤んだ瞳の朝海は、「うん、嬉しい。」そう言って小指を重ねた。自分のことを人に話すのは思ったよりも勇気がいる。例えどんな相手であっても生き方や考え方は違っていて。必ずしも自分の意見が正しいなんてこともないし、相手の言うことが全てだってことでもない。けれど私達は同じ時間を共有する仲間であって。もしも傍にいる子が悩んでいたらどうにか力になってあげたいし、自分が苦しい時は気持ちを分かって貰いたい。何より…―――一緒に笑いあいたい。いいことがあったら一番に「おめでとう」と「よかったね」そう言ってあげたい。でも自分が抱えているものが大きくて重ければ重いほど、なかなか言葉にするのも勇気がいる。もしもこれを話してしまったら軽蔑されるだろうか?とか。よく思わないんじゃないか…とか。でも全部自分に置き換えたとしたら、相手が悩んでいる以上、真剣に聞けるものなんだって思う。


「ずっとよ…。」
「うん、ずっとね。」
「ずっと、ずっとだね。」


朝海とゆきみの声に安心して笑った。これで私達、本当の友達になれたんだって、嬉しくて溜らなかった。みんなで食べるご飯は最高に美味しくて、面倒な片付けだって楽しく思える。キャンプは残すところあと一日。今日はみんなでBBQして、夜は浴衣着て花火大会にいこうと決まった。

三人揃った女子部屋。朝海の体調もよくなっていてそれがすごく嬉しい。


「そもそもいつからケンちゃんなのよ!?」


ベッドにダイブする朝海はそこに残っているんだろうケンちゃんの香りに顔を埋めていて。自分のベッドの上、あぐらをかいて座っているゆきみは二の腕を思いっきりマッサージしながらも視線を朝海に向ける。何が聞きたいって、このキャンプの途中までは陸陸言ってた朝海が、今はもうケンちゃんのことしか頭になくって。


「気づいたら?健太ってね、ココにタトゥー入ってんの知ってた?」


横っ腹をピーって指で線引く朝海は完全に恋する乙女で。


「私達、そこ見れないよね、普通に過ごしてたら。」
「あっは、そうだ。見せない!」
「痩せててもケンちゃんは腹筋割れてそうだよね?」


ムウ〜ってしているゆきみ。そういや北ちゃん一反木綿って…。


「樹とは大違いだった?北ちゃん。」


わざとそう聞くと、ゆきみが困ったように笑う。


「まぁ。いっちゃんの時はあんまし覚えてない…ってゆうか思い出さないようにしてる。でも分厚さが違う。北ちゃん本当にペラペラしてる…。」
「健太の情報は言わない。あたしだけのものにしておきたいもん。」
「えっ、ずるい!」


思わず朝海を見るけど心底幸せそうな顔をしていて、何も言えなくなる。



― 88 ―

prev / TOP / next