ホンモノの絆

【said 壱馬】


「慎、ちょっとええか?」
「んー。」


スッキリした顔の慎のベッドに腰掛けて銀髪を撫でる。寝起きで朝海と健太がどーなっとったかは知らん慎に、掻い摘んで話した。


「無事でよかった。朝海も健太も、樹も陸も、壱馬も。俺はいっつも肝心な時に役に立てなくて情けないや。」
「そんなことあらへん。なぁ慎、頼みがあんねん。」
「ん?」
「マイコこの部屋で寝かせてもええか?」
「え、この部屋って、ここ?」
「そうや。女子の部屋健太がおって、入られへん。マイコは、他の奴の部屋に行かせたない。」
「じゃあ俺出てくよ。さすがに二人と一緒はちょっと。」


あきらかに不機嫌になった慎。まぁ当然やと思う。


「慎待って。話聞いて?」


起き上がってここから出てこーとする慎の腕を掴む。怪訝に俺を見つめる慎に、小さく息を吐き出した。


「俺には何言うてもかまへんよ。横取りしたよーなもんやし。けどごめん。慎の気持ち思うたら言えることちゃうかもやけど、そんでもほんまにごめん。これだけは言わせて。―――俺もマイコが好きやった。ずっとずっと。慎に遠慮して言えんかったけど、それでも諦めきれんかった。ほんまに本気でマイコを愛してんねん、俺。」


黙って俺を見ていた慎から力が抜ける。一瞬ジロっと睨んだけど、すぐに眉毛を下げて笑った。


「分かったよ、壱馬。分かってる。悪かった、女々しくて。」
「ちゃうよ、そうちゃう。俺が慎やったらもっとあかんことしてる、思う。」
「しないよ壱馬は。いつだって正しいよ、壱馬は。俺のこと思って言ってくれてありがとう。俺、結局マイコも好きだけど、壱馬も好きだから、だからさ、マイコを宜しくお願いします!」


そう言って頭を下げる慎に、胸が熱くなる。こんなん聞きたないって言われてもしゃあないことやのに、ちゃんと聞いてくれて。


「ありがとう。ほんまに、ありがとう。」
「おめでとう、壱馬、よかったね!」


ニッコリ微笑む慎に、ほんまに泣きそうになった。だから思ったんや。ほんまの友情の意味を。人間なんて所詮自分が一番やって。誰かが苦しい時に手を差し出すのは誰でもできる。大丈夫か?って、心配することはみんなできる。でも、ホンモノの絆ってもんは、人の幸せを一緒に喜んであげることなんやと。自分に余裕のない時程、人の幸せなんて願えへんもので。慎は自分の気持ち押し殺してでも、俺とマイコの幸せを喜んでくれた。ホンモノやって思う。



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