笑顔のために

【said 朝海】


「マイコ、ゆきみ、悪いんだけど、今夜もこの部屋に誰もいれないで?」
「…え?でも朝海、大丈夫?」


とにかく身体あっためないとって、お風呂に入れられたあたしを部屋で待っていたのは既にシャワーを終えたんであろう濡れ髪の健太。タオルを肩にかけた健太はあたしの腕を掴むと自分の後ろに隠した。マイコとゆきみがご飯を持ってきてくれたけど、部屋に入れることなく健太がそう言い放ったんだ。


「こいつのこと、誰にも触らせたくねぇの。俺が一晩かけて慰めるから。明日になったら必ず笑顔全開の朝海と下降りるから、さ。」
「分かった、ケンちゃんに任せる。マイコ、行こう!」


戸惑うマイコの手を取ったのはゆきみの方で。あたし達に手を振るとパタンとドアが閉まった。途端にここはあたしと健太だけの空間で。こんなにもドキドキした瞬間があったんだろうか?肩にかかったタオルをストンっと落とした健太はあたしの腕を掴んだままベッドへと誘導する。そのまま健太の腕を下にしてベッドに座ったあたしを後ろに押し倒した。息遣いが頬を掠める距離で健太と見つめあう。


「あ、あたし…初めて。」
「…怖い?」


見つめる健太を怖いと思ったことなんて一度もない。いつだって優しくて頼りになって傍にいてくれるこの人を。


「怖くない。」
「朝海の心に俺はいる?」


ゆっくりと胸に手が落ちる。ふんわりと円を描いて触れる健太は真っ直ぐに吸い込まれそうな瞳であたしを見つめていて。


「健太しかいない。」
「俺も、朝海以外いない…―――愛してる。」


一度だけって言ったのに、二度目の愛してるはすごくすごく甘くて熱かった。



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