光の奥に

【said 朝海】


大雨で足元が悪くてほんの少しの距離なのに、上に上がれない。上からはあり得ないぐらいの雨が大量に降っていて、意識ももう朦朧とする。辛うじて木の枝に捕まっているけど、力も抜けそうで、この手を離したらあたし、もっと下まで堕ちるよね?もう手離そうかな。ケンちゃんが一番傍にいない未来なんて生きていたって面白くもなんともない。マイコを見つめるケンちゃんなんて見たくない。


「ケンちゃん…。」


どんなに苦しくてもケンちゃんがいつでもあたしを励ましてくれていた。陸に酷い事言われても、その度にケンちゃんが傍にいてくれた。黙ってただ傍に。どうしてあたしもっと早く気付けなかったの?なんで今なの?


「ケンちゃん…ケンちゃん…健太…――――神谷健太ああああああああっ!!!」


苦しい気持ちを全部全部吐き出してやろうって、ケンちゃんの名前を叫んだ。でも次の瞬間、「朝海ッ!!!」聞こえたんだ、ケンちゃんの声が。でもどこにいるのか見えなくて。分かんなくて。立ち上がる気力なんてもうどこにもないはずなのに、あたしは木の枝を捕んで立ち上がる。そのまま反対側の木に捕まるように抱きついてもう一度「神谷健太」を叫んだ。


「朝海ッ!返事しろっ!朝海ッ!?」
「健太ぁっ、健太あああっ。」
「朝海、上だ、こっち!」


顔を上げたら真っ白な光が目に入る。眩しくて目を閉じたあたしに「朝海、こっち!」再び聞こえた声に目を開けると、そこには逢いたくてたまらなかった健太がいた。ぶわあああって涙が溢れて見上げた先、柵を乗り越えてこっちにゆっくりと降りてくる健太が見える。あとちょっと、あとちょっと…。ゆっくりと転ばないように気に捕まってあたしの所に健太が降りてくる。健太に向かって腕を精一杯伸ばすあたしの指先に、ほんの一瞬触れた健太の指。ああ、よかった。あたし生きて健太に逢えた。もうこんな人生どうでもいい…なんて思っていたけど、結局あたしは健太に逢いたくて逢いたくて仕方がなかったんだって。



「ばかやろが…。」


言葉にならないって顔の健太が思いっきりあたしを抱きしめる。



「健太、健太…。」
「一度しか言わないぞ…。」
「………。」
「愛してる。もう離さない…―――。」


健太の告白と同時に唇が塞がれた。



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