消えた朝海
【said 健太】
慎と壱馬の間で押し潰されそうなマイコをほおっておくことも出来ず、朝海の熱が下がったことでほんの少しだけ安心していたんだと思う。酔って帰ってきた慎に泣きつかれたマイコは、自分の壱馬への気持ちすら見失いかけていて、だけど不意に聞こえたゆきみの声に俺は意識をそっちに移した。
「ねぇ朝海は?北ちゃん。」
「部屋にいないよね…。」
「いっちゃん、玄関どうして開いてるの?換気?」
「開けてねぇよ、」
朝海がいない?さすがにマイコも目を見開いて俺を見上げた。
「あ、ごめんね、ケンちゃん。私は大丈夫だから、ちょっと動揺しちゃっただけで。あ、と、シャワー浴びるからもういいかな。」
「あ、うん。ごめん。」
パタンとドアを閉めて俺は1階に降りた。ゆきみと北人と樹がそこにいて。陸と下のシャワーを終えた壱馬が、慎に付き添ってトイレんとこにいる。
「ケンちゃん、朝海は?」
ゆきみが不安げに俺に聞く。いや、いるはずだけど、部屋に。
「上にいないの?」
「いないよ。部屋開いてたから中に入ったけど朝海いないよ。それに玄関開いてるの、おかしくない?」
嫌な予感が頭を過ぎった。いやそんな馬鹿なこと朝海がするわけねぇ。けど、「やだ、こんな大雨なのに、なんで?まさかりっくんにお断りされた、から?」はっ!?なんだって?
「ゆきみそれいつ?」
「え、川に飛び込んだ日。」
「マジかよ。あいつ、そんなの一言も言わねぇし!」
俺はスマホをポケットに入れて外に行こうとする。慌てて樹がついてきて。
「健太、朝海は陸じゃない。原因はたぶん陸じゃねぇ。今日1日そばに居たの健太だろ。」
樹の言葉にぐっと胸に手を当てる。
「うわ言の陸より、今の朝海を信じろよ。」
「樹、みんなを頼む!」
まさか、マイコ抱きしめたの見てた!?それで朝海飛び出した?だとしたら原因は全て俺?何が何でも俺が見つけ出す。待ってろよ、朝海!
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