一反木綿でいいよ

【said ゆきみ】

「やばーい、風すごいよ北ちゃん?今日こそ花火ができると思ったのに。」


ビュービュー唸っている外の音に思わず窓を開けると風が物凄い音を立てていた。樹とりっくんとまこっちゃんの男3人は早々にこのコテージから出て行ってしまう。朝海の所にはケンちゃんが付きっきりで、わたしもマイコも入出を許されない。朝海の気持ちをケンちゃんがどれだけ大事にしているのかはわたしでも分かる。だけどやっぱりちょっと寂しいよね。風邪が治ったらマイコと二人で朝海の好きなご飯作ってあげたい。


「ほんとだ。風、すげぇや。今日はどこにも行けないね。」


わたしの後ろにピタッとくっついて北ちゃんが言う。声を発すると、お腹に空気が入って動いてて、それが背中から振動で伝わってきてドキドキする。こーいう時、樹ならわたしを後ろから抱きしめるぐらいするかもしれない。だけどここにいるのは北ちゃんで。北ちゃんはわたしのこと、どう思ってキスしたんだろうか。まだ北ちゃんの口から「好き」って聞けていない。緩く北ちゃんに寄りかかるとふわりと腕が腰に回る。わたしの肩に顎を軽く乗せた北ちゃんは横から小さなキスを頬っぺたに落とす。くすぐったくて身体を捩るとそのままわたしの腰にある腕で半転させる。目の前、至近距離で北ちゃんと目が合った瞬間、シルクみたいな北ちゃんの声が甘く響いた。


「キスしていい?」
「…ん。」


肩に置かれた北ちゃんの手に力が入った。ゆっくり目を閉じると北ちゃんの香りと一緒に重なる唇に胸がギュッと痛い。触れるごとに長さを増していくキスに目を開けると北ちゃんも薄らと目を開けた所だった。髪を優しく撫でる北ちゃんに胸がギュっと痛い。


「ゆきみ…。」
「うん?」
「もっといっぱいしたいけど、俺このままだと止まんなくなる…。」
「やだそんなの…。やだよ北ちゃん…。ねぇ北ちゃん…わたしのこと、好き?」
「え、好きだよ。どうしたの?」


至って普通に何事もなかったかのようにそう言う北ちゃんの頬をバチンと両手で叩いた。安心して零れる涙を見て北ちゃんが心底驚いた顔を見せていて…


「ゆきみ、どうして泣いてるの?え、もしかしてやっぱり嫌だった?俺にキスされるの…。」


ショックを隠しきれていない引きつった北ちゃんの表情にわたしは首を振る。


「だって北ちゃん昨日から一度もわたしに好きだって言ってくれてなかったから、ただそういうことしたいだけなのかって…そう思ったら苦しくて…。」
「違うよ!え、俺言ってなかった?」


苦笑いを返す北ちゃんにコクっと小さく頷く。ポスっと頭に手がのっかって耳元で「ごめん、愛してる。」…最近ハマってたドラマみたいにそう言う北ちゃんはずるい。だって耳に入る声は間違いなく北ちゃんのもので、それはわたしだけに伝えられている。ずっとずっと欲しかったその言葉、今やっとわたしに届いた。


「ほんとに?」
「嘘なんかつかないよ。」
「わたしも…だいすき。」
「…やっぱ我慢できそうもない。」


困ったようにそう言う北ちゃんの腕を引いて、向かうは北ちゃんベッド。その上に乗っかって着ていたパーカーを脱いだ。キャミソール姿のわたしを見て北ちゃんの口元が緩む。


「いっちゃんが言ってたよ、北人は胸板全然ないよって。ペラペラの一反木綿みたいって…。」
「うるせえ樹。負け惜しみだよ。でも俺も樹みたいに鍛えるから、今日は一反木綿でもいい?」


北ちゃんの首に腕をかけてギュっと抱きつく。耳元で「いいよ。」そう言うと、ゆっくりと北ちゃんが上に乗っかった。好きな人に愛されるって…こんなにも胸がいっぱいでちょっとだけ切なくて、最高に幸せなんだね。



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